集団的自衛権の行使には厳格な文民統制を

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武蔵 勝宏 (同志社大学 政策学部・総合政策科学研究科 教授)

 安倍首相は自らの私的諮問機関である安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会からの報告を受け、今夏までに集団的自衛権をめぐる憲法解釈変更の閣議決定を目指すとされている。2012年の総選挙では、自民党の政権公約に「集団的自衛権の行使を可能とし、国家安全保障基本法を制定する」ことが掲げられており、安倍首相がその実現を目指すことは当然の帰結であるともいえる。

 これまでの政府の憲法解釈は、集団的自衛権を保有していても行使することはできないとするものであった。また、集団的自衛権の行使が違憲と解する理由については、集団的自衛権の行使が、我が国を防衛するための必要最小限度の範囲を超えるからとされてきた。法の番人を任じる内閣法制局の歴代長官は、憲法を改正しなければ集団的自衛権の行使は不可能とする主張を崩していない。そのため安倍首相は、外務省出身の小松一郎元国際法局長を法制局長官に任命し、首相のトップダウンで集団的自衛権行使の道を開こうとしているとされる。

 もっとも、現在の政府は自公両党による連立政権であり、重要な政策の決定には連立与党の同意が求められる。安倍首相は、国家安全保障基本法の制定は先送りとし、政府の判断で可能な閣議決定において集団的自衛権の行使を認める方針であるとされるが、公明党の支持取り付けは容易ではない。そのためか、与党協議では、自民党から我が国の存立のための必要最小限度に限って集団的自衛権の行使を認める「限定容認論」が提起されることとなった。しかし、集団的自衛権の行使が違憲と解する理由は、近年では、我が国に対する武力攻撃が発生していない「他国防衛権」にほかならないからであるとされている。必要最小限度の範囲内にとどまる集団的自衛権の行使というものは、そもそもありえないのである。

 公明党からは、集団的自衛権の行使は容認できず警察権や個別的自衛権の行使によって対応すればよいとの提案がなされている。確かに、放置すれば我が国が武力攻撃を受ける事態に限定するならば、個別的自衛権の拡大解釈によって行使可能なものもあるはずである。そうした点で、集団的自衛権の行使自体を憲法解釈上の権利として認めることにこだわるよりも、まずは、日本近海の公海上で攻撃を受けた米艦船の防護や米国に向かう弾道ミサイルの迎撃などの政府が想定する事態に憲法の枠内で対処できるよう、個別法の改正などによって自衛隊が活動可能な法的な根拠を作ることから検討すべきではないか。その上で、新たに追加される自衛隊の活動の範囲については日本領域または公海上に限定することとし、他国の領土・領海・領空において、我が国が他国の防衛のために武力を行使する事態はいかなる場合にも回避されなければならない。もちろん、こうした法的根拠を得たとしても、実際に自衛隊をどう活用するかは、政府の政策判断によることとなる。

 ここで、文民統制の観点からも不可欠なのは、集団的自衛権の行使に関わる自衛隊の活動に対して、原則として事前の国会承認を義務づけることである。実際の運用では、承認手続きに一定の時間を要することから、緊急時での事後承認もありえよう。集団的自衛権が基本的に他国を防衛するためのものである以上、政府がとった政策判断の適切性や行使要件との適合性に関して国会による厳格なチェックの仕組みが何よりも重要である。

 自衛隊を運用し、我が国の安全を確保できるか否かは、その決定を行う文民政治家の判断にかかっている。政府与党内での議論にとどめず、国会での与野党間の活発な論戦を通じて、集団的自衛権の行使と文民統制の在り方についての検討が進むことが望まれる。

RIPS' Eye No.180

執筆者略歴

むさし・かつひろ 1984年神戸大学法学部卒業、参議院事務局入局。名城大学法学部助教授、ロンドン大学客員研究員を経て、2004年より同志社大学大学院総合政策科学研究科教授。博士(法学)、博士(国際公共政策)。『冷戦後日本のシビリアン・コントロールの研究』など。

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