第9回RIPS公開セミナーを9月7日(水)、21日(水)、28日(水)および10月4日(水)の4日にわたり、東京・市ヶ谷のホテルグランドヒル市ヶ谷で行った。
公開セミナーの初日の9月7日は、拓殖大学海外事情研究所所長の森本敏氏を講師にお迎えし、「大震災と日本の安全」と題して講演をしていただいた。
講演の冒頭で、森本氏は先日行われた民主党代表選挙と野田新政権への印象と、これからこの政権が早急に取り組まなければならない問題としてTPPと普天間基地問題、そして財政問題の3点を挙げた。これらの問題は、日本の安全保障の根幹にも関わってくる非常に重要な問題であるため、内閣は一刻も早く閣内で議論の場を設けこれらの問題にアプローチしていかなければならないと指摘した。
また講演の中盤で同氏は、これからの東アジアの情勢について、日本を取り巻くロシア、中国、北朝鮮の3国の現状について言及した。ロシアでは北極海の航路拡大やロシアの極東戦略の変化と、それに伴う軍の再編化が進んでいる。また中国は、新リーダーへの移行後、これまで以上に文民統制が不安定になり、軍部の海洋・宇宙・サイバー空間へのさらなる進出が予想される。そして北朝鮮の最近の積極的な外交活動の展開の背景には、米国との六ヵ国協議の条件のすりあわせを目論む狙いがあり、これに対して米国も日本の思わぬ意図で北朝鮮との交渉を進めていこうとしていると述べ、これからの東アジア情勢は冷戦時代以上に複雑なものになっていくという見解を述べた。その為、日本は関係諸国との協力体制を更に拡充し、個々の問題に真摯に取り組んでいく必要性を強調した。
終盤では、東日本大震災に関して、前政権の危機管理の認識の低さについて指摘し、危機的状況での明確なプライオリティーの設定と法的措置整備の重要性を再確認した。また、災害派遣で献身的に救助活動に従事した自衛隊の活動を評価する一方で、自衛隊の第二義的任務(災害派遣)の評価と第一義的任務(国防)の評価を同等に捉えるのは早計であり、米軍以外の外国の軍隊が日本に入ってきた際の対応レジーム作りや、陸上自衛隊の統一された指揮官・指令系統の確立の必要性についても言及していた。
セミナー当日は平日にもかかわらず、企業、防衛省、大学などから多数の参加があり、講演後の質疑応答の際には多数の質問が寄せられ、たいへん活発な議論が繰り広げられた。参加人数や参加者の年齢層の広さもさることながら、個々の参加者の日本の安全保障に対する意識の高さが伺われ、セミナーは非常に意義深いものとなった。
第2日目の講演においてクラウ海兵隊准将は、3.11大震災の後に展開されたトモダチ作戦を例にして、米軍と自衛隊の連携という観点からその成果と問題点について報告した。
USPACOM(アメリカ太平洋軍)によって名付けられた“トモダチ”作戦は3週間で集中的に展開され、軍事レベルだけでなく文民レベルでも日米が協力する場面が多く見受けられた。震災発生後、USPACOMは、Joint Task Force519を拡充してJoint Support Force (JSF:統合支援軍)を発足させた。JSFは主として自衛隊の活動を支援するものであった。当初、JSFは震災による被害の評価と救助活動向けの人員の確保に集中した。
米軍が先進国に於いて自然災害発生後の復興支援活動に従事したのは日本が初めてであった。米軍は、国務省やUSAID、そしてNGOなどから受けた支援物資を適切に割り振る役割も果たし、在日米軍は保有する資源のほとんどをトモダチ作戦に投入した。業務は拡大する一方であったが、米軍は、あくまでも「自衛隊の活動を補完するために作戦を展開している」という姿勢を貫くため、作戦行動中に日本の主権に配慮した。
作戦の内容について、米軍・自衛隊双方ともとりわけ人命救助を最優先とし、2番目に航空機による監視、3番目として空港の再興に従事した。作戦中、米軍は横田基地を中心に別の基地へ情報を円滑に伝達できるように配慮した。
トモダチ作戦全体を通して、アメリカと日本の軍事・文民レベルでの連携は円滑であった。米軍は、自衛隊だけでなく、日本の外務省など各省庁とも連携して情報の共有を進めた。
トモダチ作戦の成功要因として、1)米軍と自衛隊の良好な関係、2)日本の在日米軍基地の存在があった。仮に在日米軍基地が無ければ、米軍は日本での作戦行動のために例えばハワイなどの遠方から米軍を動員しなければならず、作戦の実行に遅延が生じた可能性もあった。
トモダチ作戦のいま一つの具体例としては、仙台空港の復興が挙げられた。震災直後、仙台空港の被害は甚大であった。しかし米軍・自衛隊が集中してその復興に従事した結果、3月16日には航空機の離着陸が可能になり、3月20日には航空機による支援物資の供給が行えるまでになった。
日本の原子力発電所の事故に関して、米国は日米同盟を維持しつつも、在日米国人の国外避難を優先した。しかしながら避難した米国人の大部分は、日本が安全になった後には再び日本に来て生活したいとしている。また原発事故への対処において特に重要だったのは、情報の共有と透明性の確保であった。
講演の最後にクラウ海兵隊准将は、1)日米同盟は現在も強いつながりを持っていること、2)日本の災害への備えが高い水準であったこと、3)人命救助や復興支援を行うにつき情報の共有は重要であることの3点を指摘し、質疑応答では、質問者から米軍の支援への謝意が述べられた。また支援活動を行う上での各アクターの認識の違いをどう埋めるかに関する質問があった。クラウ海兵隊准将は、各アクターの認識の違いを埋めるためには、日米が情報を共有し、各々の作戦行動を漸進的に改善していく必要があると回答した。
第3日目の村井友秀氏は、米中関係において米国と中国がそれぞれどのように相手国を分析しているのか、そして日本は今後この2カ国と如何にして対峙していくのかについて報告した。
米国は、中国を、1)覇権競争者、2)責任ある利害共有者、3)戦略的協力者、4)巨大市場とみなした。とりわけ2005年以降、米国は中国と連携を深める中で、中国を国際システムに組み込もうとした。
中国は、米国を最終的に排除する必要のある敵(覇権競争者)であるだけでなく、中国経済を支えるのに不可欠な「最大の依存国」とみなした。米国が現状の中国より優越していると認めつつも、領土問題では地域に影響力を行使するという姿勢を取った。
村井氏は、影響力を増している中国に対して、日本は日米同盟をさらに強化する必要があるとの認識を示した。日米同盟に関しては、日本が(米国から)捨てられるコストと(米国による戦争に)巻き込まれるコストを比較して、現状は捨てられるコストのほうが高いので、日米関係をさらに緊密化していくように提言した。
第4日目はシンポジウム形式であり、討議内容の成果をPolicy Perspectives, No.14(2012年3月発行)としてまとめている。
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参 考 情 報
第1日目:「大震災と日本の安全」
日 時
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2011年9月7日(水)13:00~15:00
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講 演
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森本 敏 氏(拓殖大学 海外事情研究所 所長)
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第2日目:「大震災にみる日米同盟」
日 時
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2011年9月21日(水)13:00~15:00
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講 演
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ウィリアム・クラウ 氏(米海兵隊 准将 / 在日米軍 副司令官)
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第3日目:「緊張する米中関係」
日 時
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2011年9月28日(水)13:00~15:00
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講 演
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村井 友秀 氏(防衛大学校 教授)
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第4日目:シンポジウム「災害対策と防衛のために新技術をどう生かすか」
日 時
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2011年10月4日(木)15:00~18:00
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パネル討論
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西山 淳一 氏(元 三菱重工航空宇宙事業本部 副事業本部長)
J. F. アーミントン 氏(ボーイング・ジャパン 副社長)
C. L. オーチャード 氏(ノースロップ・グラマン社東京支社 副社長)
A. ステファンソン 氏(ジオアイ社 アジア部長)
熊倉 弘隆 氏(IHIエアロスペース社ロボット開発室長)
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(肩書は講演当時のもの)