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論評・出版 COMMENTARIES

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武器輸出政策はもっと積極的に


【武器輸出三原則】
 昨年(平成23年)12月に「武器輸出三原則」の「見直し」が行われた。それから半年経つが、まだ具体的な新規案件は見えない。

 今回の「見直し」、正確には「防衛装備品等の海外移転に関する基準(2011.12.27)」は「平和貢献・国際協力に伴う案件」と「我が国の安全保障に資する防衛装備品等の国際共同開発・生産に関する案件」について「包括的な例外化により、防衛装備品等の海外への移転を可能」とした武器輸出に関する新しい基準である。このように「国際共同開発の包括的例外化」はされたが、武器輸出については「平和国家としての基本理念に基づく武器輸出三原則等により慎重に対処する」としており、佐藤内閣の武器輸出三原則と三木内閣による統一見解を含めた「武器輸出三原則等」を否定、あるいは撤回したものではない。つまり「武器輸出三原則等」はそのまま維持されている。

 今回の見直しを受け、産業界独自で何ができるかを考えてみると、将来技術や部品/サブシステムレベルなどで外国メーカーとの協力できる可能性はあるが、武器システムそのものの共同開発・生産は国のニーズと予算の裏づけ、および政府間の合意が必要であるため民間独自で進めることはできない。さらに条件の一つである「我が国の安全保障に資する場合」については民間企業が判断できることではなく、国が武器に関する共同研究・開発、輸出について判断するということを改めて明言したことに他ならない。

【防衛技術】
 防衛装備品に関して、戦後、我が国は欧米、特に米国からの技術導入により国内技術力を発展させてきた。開発の手法、試験のやり方、スペックの書き方を学んだ。つまり、防衛技術のイノベーションを技術導入という一方向の形で取り込み、その上に国内技術を発展させてきたと言える。国内向けの技術開発は進めてきたが、武器輸出三原則があるため国外向けに発信する必要がない半分閉ざされた世界であった。

 イノベーションとは、一般には新しい技術の発明とされているが、新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する物事の「新機軸」「新しい切り口」のことと言われている(Wikipedia参照)。

 今回の武器輸出三原則の見直しは広い意味でのイノベーションであり、新しい開国である。今後は防衛技術、装備品の分野でも双方向が可能になるということは意義深いことである。これらを具体化するために、企業には国際社会の中で競争しながらやっていくという発想の転換が求められ、政府にはその実現のための仕組み作り、すなわち具体的な制度設計が求められる。官民の協力により具体的案件の発掘、推進を期待したい。

【国家像】
 我が国は、経済では第三の開国と言われているTPP[1]に参加する方向であり、武器輸出三原則の見直しは防衛版のTPPであるとも言える。いままで我が国は武器輸出三原則で輸出はできない、集団的自衛権問題で国際安全保障活動に参加できない、と言ってガラパゴスを決め込んできた。そこに安住してきた。外国からは、国際社会で責任を果たさない、いざとなればお金で解決しようとする、いろいろ理屈を捏ねる「ずるい日本人」と思われてはいないだろうか。

 明治の開国以後、明治政府は「富国強兵」をスローガンに国家の繁栄を進めて来た。第二次世界大戦の敗戦後、日本は憲法による制限を理由に、安全保障・軍事を米国に任せ、経済を優先させて「経済大国」への道を歩み続けてきた。

 21世紀に入り、戦後60年を過ぎ、さらに失われた10年、20年を経て、今まさに我が国は国としての立ち位置を問われている。我が国周辺は不安定さを増し、その中で我が国は国際社会でどのように責任を果たすのかを問われている。

 「技術立国」もよし、「観光立国」もよし、「Cool Japan」もよいだろう。どんどん推進すべきである。しかし、これらは国の根幹をなすものではない。

 日本は独立国家として、自分の国は自分で守るとの意識を持ち、国際社会の中でアジアの先進国としての責任を果たす。それは安全保障面で「普通の国」になるということである。(了)