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論評・出版 COMMENTARIES

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日本は総合的対中戦略をー地域秩序変動期を乗り切るために

 「いまの国際情勢から見ると、北朝鮮こそが中国の潜在的な敵で、韓国は中国が友になれる可能性のある国だ。」3月、中国の最も著名な冷戦史研究者、沈志華(華東師範大学)がある講演会でこう言及し、金正恩政権を見放すよう訴え話題を呼んでいる(http://mt.sohu.com/mil/d20170323/129870424_120776.shtml)。沈は昨年9月に、大著『最後の「天朝」:毛沢東・金日成時代の中国と北朝鮮』を世界に先駆け日本で出版しており(朱建栄訳、岩波書店、上下巻)、中国の高位指導者にも尊重されているという。その彼が、毛沢東時代から中朝両国には共通利益がなかった、北朝鮮の核実験が韓国へのTHAAD配備をもたらし中国の安全を脅かしている今、双方の利益は対立したと指摘し、中国はむしろ「米日韓の鉄の三角同盟」のうち最も弱い韓国を引き寄せていくべきだ、と主張したのである。

 北朝鮮の体制転覆を辞さない沈の主張は、中国の人々に強いショックを与えた。ただ、4月に入って米中首脳会談が行われ、中国全体が新たな朝鮮戦争の勃発への懸念に包まれる中で、その意見は奇抜に見えなくなってきた。外交部の公式見解は旧態依然だが、『環球時報』などのメディアは、北朝鮮を中国の核の傘の下に入れるべきと主張したり、北朝鮮に対する制裁の強化を訴えたり、百家争鳴の様相を呈している。THAAD問題を契機に、中国では朝鮮半島問題に対する根本的な認識転換が起きている。

 では、それは何から何への転換を意味するのか。筆者は中国の朝鮮半島への眼差しが、対等な主権国家の関係を前提とするウェストファリア的なものから、地域覇権国としてのそれに急速に変化しつつあると考える。冷戦終結後長い間、中国は北朝鮮の主権を尊重し、核開発の停止を求める国は交渉して対価を払うべきだ、という態度であった。しかし、最近の認識は質的に異なる。昨今、中国の専門家たちは、台湾統一は当然としながら、米国の同盟国である韓国の半島統一は許せないという。また北朝鮮の脅威が現実化する中、中国は韓国にTHAADを配備するなと主張し脅しをかける。THAADが中国を監視するからという理屈だが、実は中国も1970年代末から米CIAと新疆でソ連の核監視ステーションを運営していた。そもそもTHAADは防衛用兵器で、その配備は韓国の自衛権の範疇である。THAADが中国にもたらす影響は、中国が東方に打ち込もうとするミサイルの破壊力が無効化される、つまり対米核抑止力が低下するという点に尽きる。中国は要するに、米中競争の観点から半島問題を考え始めており、そこにあるのは覇権国が持つ自己中心的な論理である。

 では、こうした中国に日本は準備を整えているのか。この点は心もとない。日本政府は現在、米国中心の地域秩序を全力で維持しようとしている。それが日本の国益にかなうという判断だ。だが他方で、政府の責任者が北朝鮮問題の解決は中国次第などという。これは矛盾している。中国は当然、自らに有利な問題解決を求めるからだ。中国は今、自らが安心できる「平和」な国際環境の創出のため、勢力圏を拡大して地域から米国の影響を排除しようとしている。米中の覇権ゲームにおいて、冷戦期の対立の前線は再考の対象である。もしも将来、朝鮮半島が統一されるなら、韓国は中国の圧力で米韓同盟を破棄することになろう。加えて中国依存の北朝鮮問題の解決が続けば、米国は他の問題で中国との競争の手を緩めざるを得ない。こうしている間にも、中国は南シナ海の内水化を着実に進めており、そこを拠点とするインド洋への進出も現実味を帯びてきた。「一帯一路」と同時進行する中国の「覇権国化」に対し、多くの周辺諸国は黙認の立場である。日米同盟も永遠に続くとまで言い切れない。

 中国は地理的に近接するライバルに強く反発する傾向があり、かつての中ソ対立を参考にするなら、日中の対峙はあと20年程度持続しよう。この間に到来する地域秩序の変動を、日本はどう乗り切るのか。中国を毛嫌いするのではなく、また米国に依存するのでもなく、中国をよく理解した上で、グローバルな情勢を視野に入れた総合的な戦略を主体的に練っていく必要があろう。