2017.11.29
「国家安全保障会議5年目の試練」
2013年12月に国家安全保障会議が創設されて5年目を迎えようとしている。同会議とそのスタッフ組織である国家安全保障局が、安倍政権の活発な外交・安全保障政策の要となっていることは衆目の一致するところだろう。
開催頻度が低く、半ば形式化していた安全保障会議と異なり、国家安全保障会議は、案件発生時のみならず、隔週に一回定例的に開催されており、四大臣による実質的な議論が行われている。国家安保局、外務省、防衛省等の局長級による事務レベルでの緊密な調整が四大臣会合を事務的に支える。国家安保局は、平和安全法制の整備に伴う膨大な法制化・調整作業を取り仕切るなど、大型プロジェクトの推進でも力を発揮してきた。
谷内正太郎国家安保局長以下、同局幹部が、各国のカウンターパートとの関係を構築してきた意義も大きい。近年主要国でトップリーダーが外交・安全保障政策を主導する傾向が強まっており、NSCスタッフ的組織同士が直接やりとりできるかできないかが、ハイレベルでの情勢認識の共有や戦略協議の密度を左右する。期待以上の働きをしてきた国家安全保障会議だが、それに満足しているわけにはいかない。これまでとは次元の異なる三つの試練に取り組まねばならなくなっているからだ。
第一に、核武装化を完成しようとする北朝鮮をめぐる緊張がかつてなく高まっており、米国による限定攻撃など、日本に直接間接の影響がある有事シナリオを度外視できなくなっている。災害やミサイル発射実験といった平時の危機管理では、内閣官房の事態室が中心に対処しているが、周辺事態が発生すれば、国家安全保障会議と国家安保局が基本方針の策定や戦略的観点での検討を行うことになろう。実際に事態が生起するかどうかはともかく、起こりうる事態に備えて何が必要か洗い出しておくことは急務である。外交的解決がはかられる場合も、核開発を現状維持とし、米国本土に届くミサイル開発のみ凍結するといった形で妥結すれば、日米間でデカップリングを生じることになる。北朝鮮危機の帰結や日本がとりうる選択肢について、国家安全保障会議で多角的に検討しておく必要がある。
第二に、2018年末に予定されている防衛計画の大綱/中期防の見直しをどうするか。安全保障会議時代には、防衛省内での検討をふまえて、内閣官房の安危室が関係省庁間の調整を行い、安全保障会議での審議を経て決定する流れになっていたが、はるかに強力な国家安全保障会議、国家安保局が存在する中で、新たな策定過程を確立していかねばならない。国家安保戦略/防衛大綱/中期防の関係についても整理する必要があるだろう。防衛大綱は防衛力整備に関するものなので、基本的には防衛省が当事者性、主体性を維持すべきだが、他方で、政策の前提を変える政策転換には、国家安全保障会議における政治判断や国家安保局による総合調整が不可欠となる。防衛費の大幅増や敵基地反撃能力の獲得について、国家安全保障会議や国家安保局が議論を主導して結論を出すことが期待される。
第三に、中国のパワー増大が続く中で、日本の安全と影響力を保ち、東アジアに自由で開かれた安定的な秩序を形成していくにはどうしたらいいいか、長期的な観点で戦略を検討し、推進していく必要がある。中長期的な戦略形成は国家安全保障会議創設のそもそもの狙いだったが、習近平国家主席が権力基盤を強化し、トランプ政権下における米国の対外関与の不確実性が増している今、戦略構想を関係機関の行動を律する具体的なかたちにしていくことがいよいよ求められる。
国家安全保障会議の創設は、日本の外交政策と防衛政策の統合をかつてなく深化させたが、三つの試練は外務、防衛当局を超えたさらに深く、広い政策統合を必要とする。これまでの実績に安住せず、国家安全保障会議システムをさらにバージョンアップしていかねばならない。