「日本の国際平和協力に質的転換を」
藤重 博美(法政大学 准教授)
2017年5月末、南スーダンの国連PKO(UNMISS)から陸上自衛隊が撤退して1年が経つ。国連PKOへの日本の部隊派遣は「ゼロ」になった。
日本の国際平和協力には、物資協力や選挙監視等もあるが、中核はなんといっても自衛隊の部隊派遣だ。憲法の制約もあり、活動内容は、陸上自衛隊・施設(工兵)部隊による道路や橋の修復など後方支援業務に限られてきた。それでも数百人単位の大規模派遣が四半世紀にわたり維持され、カンボジア、東ティモール、ハイチ、南スーダンなど内戦後の国々の復興支援を中心に活動してきた。だが、部隊派遣の歴史は途絶えた。今後、部隊派遣の復活を目指すべきか。それとも、別の方策を模索するべきか。
この問題を精査するため、このほど『国際平和協力入門:国際社会への貢献と日本の課題』(上杉勇司、藤重博美編)を上梓した。結論を先取りすると、近い将来、部隊派遣を再開できる見込みは高くない。施設部隊が得意とするインフラ整備向きの「国家建設」型PKOが激減しているからだ。
冷戦後、国連PKOは内戦後の国々の復興(国家建設)支援に取り組むようになった。生活の基盤が破壊された内戦後の環境では、インフラ整備が重要な意味を持つ。このニーズが、戦闘部隊を派遣しにくい日本側の事情と合致し、施設部隊の派遣(特にODAと協力したオールジャパン連携)は日本の国際平和協力の「お家芸」となった。
だが、近年、「国家建設」型の国連PKOはほとんど新設されず「文民の保護」型が主流である。国連PKOの現場がそれだけ危険になっているということだ。「文民の保護」型では、通常、国連憲章第7章に基づく軍事的強制措置が認められ、軍事要員(特に歩兵)が事実上の戦闘行為を行う。
UNMISSも、当初は「国家建設」型として始まり、施設部隊は、道路整備や浄水場整地等により新国家の自立を支援していた。だが、2013年以降の現地情勢の急激な悪化を受け、「文民の保護」型に切り替わった。そのため、平和安全法制の一環として改正された国際平和協力法(2016年施行)に基づき、「駆け付け警護」任務が付与されたことは記憶に新しい。だが、戦闘を主任務としない施設部隊の派遣継続は難しく、結局、撤退にいたった。
したがって、施設部隊派遣の再開は容易ではない。今後は「量」から「質」の貢献に軸足を移した国際平和協力を追求すべきだ。大規模な部隊派遣ではなく、日本の経験や知見、技能を活かした「コーチ」的な役割への根本的な転換である。
これには、三つの側面がある。第一は、国連本部や各PKO司令部への要員派遣だ。既に実施されているが(UNMISSの司令部にも4名を派遣中)一層力を入れるべきだ。第二は、途上国のPKO要員に対する教育訓練である(その質の低さが問題になることが多いため)。これも、既に世界各地のPKO訓練センターへの講師派遣やアフリカ諸国の工兵に対する訓練等として実施済みだが、さらなる強化が望まれる。第三は、紛争後国の政府機関(特に警察や軍隊等)に対する改革支援である。こうした質的な改革支援には、とりわけ先進国である日本への期待が高いうえ、派遣人数も少数で足り、また、活動する環境も比較的安全性の高い場所になるはずだ。しかも、こうした治安組織への改革支援は、2016年の法改正で可能となっている。だが、具体的な取り組みはまだあまり進んでいない。今後は治安部門への改革支援に特に力を入れて行くべきだ。
その他、国連以外が実施している平和活動への参加等の方策もある。これも、既にミンダナオ和平支援(文民要員の派遣)等で実績がある。部隊派遣が中断している間にも、知恵を絞った国際平和協力を追求するべき時だ。