2023年度ワシントンD.C.研修報告
2023年9月上旬、日米パートナーシップ・プログラム第7期奨学生はワシントンD.C.を訪問し、20名以上の有識者・政府関係者と意見交換を行った。今回の研修は、2022年12月の戦略三文書の改定、2023年8月のキャンプ・デービッドにおける日米韓首脳会談など、日本の安全保障戦略や日米関係に活発な動きが見られる中での訪問となった。訪問先では、日本および米国の安全保障戦略、日米の安全保障協力、自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)をはじめとした多国間協力枠組みをはじめとして、様々なトピックについて意見交換を実施した。
意見交換の概要
以下では、意見交換の中で印象に残った議論を紹介したい。
(1) 日本の戦略三文書の改定
昨年12月に閣議決定された日本の戦略三文書の改定については、日本の安全保障戦略を前進させるものとして多くの有識者から肯定的な評価が聞かれた。ただし、今後の具体的な取り組みが課題であるとの指摘も多く聞かれた。台湾海峡問題、指揮統合、サイバー安保、経済安全保障など、様々な分野において今後の取り組みの可能性が議論された。新しい戦略の実現に向けて課題は残っているといえ、具体的な取り組みを議論することができる状況が生まれたという点に、戦略三文書改定の意義を改めて感じた。
加えて、ワシントンDCにおける日本への関心の高まりも多く言及された。米国における対中国認識の変化や世界的な(多国間外交に代わる)二国間外交の拡大という背景はありながらも、戦略三文書改定をはじめとした近年の日本の積極的な安全保障戦略の展開がその背景に見受けられた。
(2) 日米韓関係
今回の意見交換が日米韓首脳会談が行われてから間もない時期であったこともあり、日米韓関係についても多くの有識者が触れていた。こちらも日本の戦略三文書同様、関係の深化に対して肯定的な評価が多く聞かれた。ただし、課題として、3ヶ国の協力関係の制度化が挙げられた。確かに、現在の日米韓の協力深化には韓国における尹大統領就任後の日韓の関係改善が大きな役割を果たしていると考えられる。この関係改善は尹大統領個人、およびそのもとでの保守政権の存在が支えており、現政権の不安定化や革新勢力への政権交代といった事態が発生した場合、日米韓関係の基盤となる日韓関係が揺らぐ可能性は否定できない。このように日韓関係という3月の韓国研修時の主要なテーマがワシントンDCでも議論となったことから、日米関係・日韓関係がともに日本の安全保障外交をめぐる重要なトピックであることを実感した。
(3) 対東南アジア、太平洋諸国外交
東南アジア、太平洋諸国への中国の影響力拡大に対する日米の対応についても議論が見られた。興味深かった指摘として、これらの国々には米国よりも日本の方が関係強化に向いているというものがあった。米国との関係強化は米国の軍事プレゼンスの拡大を想起させ中国や周辺諸国を刺激するという懸念があったり、民主主義理念の強調などの形で米国が内政に干渉するという懸念があったりする一方、日本は経済面を中心とした関係強化として、肯定的に受け入れられやすいのではないか、という議論であった。日本が米国に依存するのではなく、対等なパートナーとして役割を果たしていく上で貢献しうる領域として、興味深く感じられた。
感想と謝辞
今回の研修で日米関係、および米国政治について集中的に触れることを通じて、日本の安全保障はもちろん、国際政治全般に対する解像度が高まったように感じている。筆者は中東の現代政治を専門としているが、米国を常に中東政治に影響を与えるアクターとして理解しながらも、中東と関わる部分に理解が限定されていた。今回の研修を通じて、日本との関わり、さらには米国を中心に置いた上での日本や中東、さらには世界各地に関する視座を深められたと考えている。
さらに、筆者が初めてのワシントンDC訪問ということもあるが、ワシントンDCにおける日米関係に関する有識者の多さ、そして日米関係を扱うシンクタンクの数の多さも強く印象に残った。日本と米国では政策過程が異なり、シンクタンクが政策形成に果たす役割が異なるとはいえ、活発に政策議論が行われる空間の存在に強く刺激を受けた。
このことから、有識者やシンクタンクとのネットワークが重要な資源であるということを実感した。そのもとで、今回の充実した研修は土山先生と神谷先生がこれまでに築いてこられた貴重なネットワークを惜しみなく分けて頂いたことによるものだということを痛感した。アレンジ下さった土山先生と神谷先生に厚く御礼申し上げたい。また、研修プログラムの準備、現地でのロジを綿密に行っていただいたおかげで、研修に集中して取り組むことができた。ご担当いただいた大野研究員、秋元研究員にも感謝申し上げる。