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【報告】2023年度ワシントンD.C.研修活動報告

ワシントンD.C.研修 報告

研修の概要

 筆者は、2023年9月5日から8日(現地時間)、日米パートナーシップ・プログラムの第7期奨学生の一員として米国の首都であるワシントンD.C.を訪問した。ワシントンD.C.では、駐米日本大使館や現地の研究所などを訪問して研究者や実務家の方からお話を伺い、意見交換をした。
 訪問先では、日本の安全保障関連3文書についての米国側の見方、日米の経済安全保障協力、米中対立の現状、米国の内政と日米関係への影響、日米韓3か国間協力などが議論された。

現地で議論された主要なトピックと感想

〇日本の安全保障関連3文書についての米国側の見方
 日本政府は、昨年国家安全保障戦略を全面的に改定し、また国家防衛戦略と防衛力整備計画を作成した。この安保関連3文書は、戦後の日本の安全保障政策を大きく変えるものとして、注目されている。米国の関係者の間でも、日本の安保関連3文書は大きく注目されていたようで、防衛予算の引き上げや反撃能力の保有、自衛隊の統合司令部の設置などが今回の訪問でも議論の対象になった。
 今回訪問した米国側の研究者や実務家は、その多くが日本の安全保障関連3文書に書かれた内容を評価していた。そして、文書に書かれた内容を日本が着実に実行することによって、厳しさを増す地域の安全保障環境に対して日本が適切に対処できると認識していた。
 岸田政権が策定した昨年の安全保障関連3文書は、日本の安全保障政策にとって歴史的な転換点の1つであると言える。そうした転換が米国でも重く受け止められているという話を聞き、米国の安全保障政策にとっての日本の役割の重要性の高まりについて考える機会になった。

〇日米の経済安全保障協力
 今回の研修では、日米の経済安全保障協力についても議論の対象になった。米国の研究者の多くが、民生目的と軍事目的を兼ねるデュアルユース(軍民両用)技術の開発における協力の必要性を強調していた。また、現在の日米の経済安全保障協力の課題として、バイデン政権が内政上の問題もあって市場開放に消極的であることを指摘する意見もあった。
 日米パートナーシップ・プログラムで自分が取り組んでいる個人研究は日米の経済安全保障協力に関することなので、経済安全保障についての話は特に興味深かった。また、筆者は日米の経済安全保障協力における深刻な課題の1つが米国の市場開放における消極的な態度にあると考えていたので、同様の指摘を米国の専門家から聞くことができたのも良かった。

〇米中対立の現状
 全体的に、今回の研修でお話を伺った研究者や実務家の方は、現在の米中対立について深刻な現状認識をしていた。ただ、米中関係の厳しさについては共通の見方を持っていても、米中の力関係についての現状認識や、今後の取るべき対応についてはかなり異なる意見を聞くことができた。
 例えば、今回お話を聞いたある研究者は、中国による影響力工作の失敗や日本の安全保障についての取り組みの強化、日米韓の協力強化によって、東アジア地域の安全保障環境は大きく日本やアメリカにとって有利な状況になっていると主張していた。一方で、別の研究者は米国が何もせずに中国の台頭を20年間見ていたおかげで、日米が共同で対処するべき課題が山積していると語っていた。また、今後の取るべき対応については基本的に中国に対して強い態度を取ることで抑止をするべきだという意見が主流であったが、よりソフトなアプローチを取るべきだという見方もあった。
 今回の研修での全ての訪問先で、米中対立についての話があったが、多かれ少なかれ訪問先によって注目しているポイントや意見が違っており、この問題における米国の研究者や実務家の見解の多様さについて考えさせられた。

〇米国の内政と日米関係への影響
 今回の訪米では、米国の二極化する内政状況が日米関係に与える影響についての議論も行われた。特に、2024年の大統領選挙でトランプ前大統領が再び当選した場合の影響についての話が取り上げられた。ただ、今回の研修でお話を聞いた多くの方からは、トランプ政権とバイデン政権の外交・安全保障政策は大きく変わっておらず、議会においても外交政策は両党の間では数少ない意見の違いが比較的小さい分野なので、2024年の選挙による政権交代が日米関係に与える影響は大きくないのではないかという話があった。
 2017年から2021年までのトランプ政権でも、トランプ大統領個人の主張と政権としての政策が異なることは多々あったので、こうした見解は十分理解できた。一方で、二極分化に苦しむ米国の内政上の混乱が外交政策に与える負の影響については、今後とも考えていかないといけないと思った。

〇日米韓の3か国間協力
 今回の訪問先では、日米韓の3か国間の協力についても話を聞くことができた。キャンプデービッドでの会談に関しては、現在の東アジアの安全保障環境、特に中国と北朝鮮に対する対応を3か国が協力して行うことについての枠組みができたという評価が多かった。一方で、韓国の政治動向によっては協力の枠組みにも影響がでるのではないかという見方もあった。

謝辞

 今回の研修では、様々な機関が日米パートナーシップの奨学生一行を受け入れてくださり、貴重なお話をいただくことができた。また、多くの機関では複数あるいは大人数で奨学生一行を迎えてくださり、それぞれのご専門から丁寧にお話や質問への回答をしてくださった。今回の訪問を受け入れてくださった全ての機関の方々に御礼を申し上げる。
 また、今回の研修について助成をいただいた国際交流基金と、研修に同行された原田様に、現地でとてもきめ細かいサポートをしてくださった平和・安全保障研究所の研究員である大野様と秋元様にも感謝を申し上げる。
 最後に、このワシントンD.C.研修を最後に日米パートナーシップ・プログラムのディレクターを退任される土山先生と、今回の研修で多くの機関への訪問を実現してくださった神谷先生、そして様々な形で今回の研修に関わっていただいた全ての方々に心から御礼を申し上げたい。