1.研修の概要
2023年3月26日から28日の3日間、日米パートナーシップ・プログラム第7期(「安全保障研究奨学プログラム」通算第21期)奨学生として、韓国の首都ソウルを訪問した。訪問先のソウル大学校国際大学院、東アジア財団、峨山政策研究院、国際交流基金ソウルセンター、慶南大学極東問題研究所、韓国国防研究院では、日韓関係や朝鮮半島研究を専門とする政治・外交・防衛・安全保障の研究者と有意義な議論を交わした。
今回の韓国研修は、2023年3月16日の日韓首脳会談後すぐに行われたものであったため、日韓関係の今後の在り方が議論の中心的テーマとなった。また、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻から約1年が経過した中での実施ということもあり、ウクライナ戦争後の韓国における防衛・安全保障論議も中心テーマとなった。さらにそれ以外にも、台湾有事や、岸田政権による防衛政策の転換、少子高齢化などの様々な問題に対する韓国の外交・安全保障政策の在り方についても議論が交わされた。
2.議論の概要
上記のテーマの中で、とりわけ印象に残ったのは以下の議論であった。まずは、日韓関係をめぐる議論である。2023年3月に12年ぶりに実現した日韓首脳会談では、これまでの日韓関係とは打って変わって、友好的かつ未来志向のムードが高まった。一方で、徴用工問題の解決のために国内世論に批判されながらも「勇気を出した」尹政権の外交姿勢に対して、日本側がどの程度「誠意ある呼応」を見せることができるのかが、韓国側の研究者の注目するところであった。その「呼応」にどの程度の誠意を求めるかは、日本に対してポジティブな保守派とネガティブな進歩派とでは意見が異なってくるが、今後何らかの「呼応」を日本に期待するという意味では、両者に共通している点であった。
次に、ウクライナ戦争後の韓国における防衛・安全保障論議についてである。日本では岸田首相が2022年6月29日に行われた北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議に日本の首相として初めて出席し、中国の強引な海洋進出に触れながら、「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と述べるなど、ウクライナ戦争と台湾有事が連動して議論された。一方、韓国ではウクライナ戦争の衝撃こそは国民に共有されているものの、台湾有事についての議論が活性化しているとは言えない様子であった。その背景には、韓国の安全保障政策が朝鮮半島を中心に展開されていることに加えて、日本ほど中国に対する脅威認識が強くないという背景があることがわかった。
3.感想
報告者はこれまで多くの韓国人と政治や歴史に関する議論を交わしてきた。そうした自身の経験を思い返すと、今回の研修では、より建設的な議論ができたと考えている。それは本研修が、安全保障をテーマにしたものであり、日韓が共通の価値観のもとで協力可能な分野について議論を交わしたからなのかもしれない。岸田首相による昨年の安全保障関連3文書改定と防衛政策の大転換に関しても、「やや説明不足である」という韓国研究者側の批判を除けば、おおむね好意的に捉えられているようにも思えた。
一方で、やはり日本にとって韓国が「近くて遠い国」であるということを改めて実感した3日間でもあった。3月の日韓首脳会談での日本側の対応に失望を示し、今後の日韓関係の改善は日本側の「誠意ある呼応」(誠意ある自発的な取り組み)にかかっているという韓国側研究者からの指摘は、考えさせられるものであり、日韓関係の改善が容易ではないことを改めて実感させられるものであった。
4.謝辞
最後に、今回このような有意義で実りある韓国研修の機会をご提供いただいた国際交流基金の原田様、そして、平和・安全保障研究所(RIPS)の徳地理事長、さらにはすべての日程に同行してくださったプログラム・ディレクターの土山名誉教授ならびに神谷教授に厚く御礼を申し上げたい。また、同研修の調整にご尽力いただいた大野研究員および秋元研究員にも深く御礼申し上げたい。