第5期 奨学生:溝渕 正季(名古屋商科大学 准教授)
1.研修の概要
2018年9月4日から7日にかけて、日米パートナーシップ・プログラム第5期(「安全保障研究奨学プログラム」からは通算第19期)奨学生は研修の一環として韓国を訪問し、ソウル市内にある研究所・大学において朝鮮半島研究を専門とする政治・安全保障・歴史分野の研究者たちとの間で活発な意見交換・質疑応答を行った。
今次の研修は、2018年4月に板門店にて金正恩・朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長と文在寅・大韓民国大統領とのあいだで実に10年半ぶりに南北首脳会談が実現し、同年6月にはシンガポールにて金委員長とドナルド・トランプ米大統領とのあいだで歴史的な首脳会談が開催されるなど、北朝鮮をめぐる国際情勢が大きな変化を遂げるなかで実施されたものであった。それゆえ、意見交換・質疑応答におけるトピックも必然的に米朝関係・南北関係の行方、ならびに北朝鮮の非核化といったタイムリーなものが中心となった。
また、研修二日目に訪問したDMZ・板門店は、まさに60年以上に渡る朝鮮半島の南北分断を象徴する場所であり、そこで停戦協定遵守の監視を行う兵士の姿を直接見たり、非武装地帯の緊迫した空気を直接肌で感じたりすることができたことは、その後の意見交換において朝鮮半島情勢を議論するにあたりきわめて有意義であった。
2.議論の概要
今回の訪問では、日本側・韓国側双方が朝鮮半島情勢、ならびに日韓の安全保障政策についてプレゼンテーションを行った上で、自由討論や質疑応答を行うという形式で議論を進めた。上述のように、議論におけるメインのトピックとなったのは朝鮮半島の非核化の可能性、米朝関係・南北関係の行方といったタイムリーな事柄であったが、それ以外にも日米が推進する「自由で開かれたインド太平洋戦略」の韓国にとっての意義、中朝関係の構造や見通し、北朝鮮の国内政治問題、そして韓国の政治・外交問題など、朝鮮半島をめぐる幅広いトピックについて意見交換を行うことができた。
そのなかで、とりわけ興味深く感じた点は以下のようなものであった。第一に、北朝鮮の非核化に向けてポジティブな見解を持つ研究者(いわゆる「進歩派」)が意外なほどに多かったという点である。日本国内はもとよりアメリカをはじめとするその他の諸外国においては、こうした論調はむしろマイノリティに属するものであろう。韓国国内で「保守派」と「進歩派」の比率がどれほどのものなのか、報告者には容易に判断できないが、それでも少なくとも「進歩派」の見解がマイノリティではないという点は非常に興味深いものであった。
第二に,米韓同盟・在韓米軍の存在・意義については「保守派」、「進歩派」を問わず一様にその重要性を指摘し、その枠組みのなかで日韓関係を捉えるという視点を多くの論者が共有していた点である。また、THAAD配備を機に急速に冷え込んだ中朝関係についても、あくまで米韓同盟を基軸として考えるべきだとの見解を多くの研究者が述べていた点が印象的であった。
3.感想・謝辞
最後に、多くの日本側参加者が一様に口にしていたことであるが、今後さらなる協力関係を推進しなければならない韓国側の本音の部分について、直接現地を訪問し、現地の研究者と直接意見を交換することにより、朧げながらも捉えることができた点は、今次の研修における最大の成果であったように思う。
この度、このような非常に実りある韓国研修に参加し、きわめて貴重な体験をすることができたのは国際交流基金日米センター(CGP)の御後援、そして平和・安全保障研究所(RIPS)の西原理事長、さらにはすべての日程に同行してくださったプログラム・ディレクターの土山實男・青山学院大学教授による御指導の賜物であり、篤く御礼申し上げたい。また,一連の日程をアレンジしてくださった秋元研究員、三百苅研究員、田原研究助手にも心より御礼申し上げたい。