「トランプ時代の日米関係に安心してはならない

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佐橋 亮(神奈川大学 教授)

 6回目となった安倍・トランプによる日米首脳会談(2018年4月)は、両首脳の個人的関係の良さにも助けられ、両国が経済、東アジア安全保障でかなり異なった展望を抱いているにもかかわらず、問題解決を先送りした。その点で、日本外交は巧みに動いたと評価できる。しかし、相次ぐ閣僚交代、厳しい中間選挙の見通しによってトランプ政権の経済ナショナリズム、成果主義は高まっている。日本は楽観を排し、自らの利益を貪欲に追求するトランプ外交への備えをさらに固めるべきだ。

 通商からみてみよう。2017年2月の首脳会談で、麻生副総理とペンス副大統領による協議枠組み設置が合意された。日本の思惑は、この枠組みに様々な議題を放り込み、通商問題だけを真っ向から受け止めることを回避しようとするものだった。2018年になると「米国第一」を標榜する経済ナショナリストたちが静かに復権を始める。通商拡大法232条により、米国が鉄鋼、アルミニウムへの関税引き上げを行うと、除外されたカナダや韓国といった同盟国と異なり、日本は引き上げ対象となった。鉄鋼、アルミニウムに限れば、不利益を受けるのは日本企業以上に米国の消費者であり、関連企業だ。大きく騒ぎ立てる必要はない、との指摘もある。他方で、この流れで日米FTA交渉や為替が議論の俎上に載せられてくるとの恐れは首脳会談前に強かった。結果から見れば最悪の事態は避けられた。両首脳は茂木・ライトハイザーによる新たな協議設置で合意し、日本からみれば時間を稼ぐことができた。

 だが、問題は根深い。そもそも両首脳が繰り返し述べた「自由で、公正で、互恵(相互)的な」貿易だが、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への米国復帰を望む日本が「自由で公正」に力を込める一方で、トランプ政権は「互恵的」であること、すなわち米国に利益が生まれることを望んでいる。トランプ大統領は共同記者会見でもTPPへの嫌悪感を隠していない。楽観を排すべきだろう。まず、中間選挙後すら政権に根を張った経済ナショナリストが容易に力を失うとは思えない。第二に、トランプ政権の懐柔を図る中国政府が、早い段階で目に見える成果を差し出すことは十分にあり得る。中国との「取引」が成功すれば、トランプ政権がTPPへ復帰する可能性はさらに遠のき、対日圧力は増す。日本は割に合わない譲歩をすべきではない。牛肉、自動車、対外有償軍事援助(FMS)等で安易に譲歩を行えば、かつての管理貿易に後戻りすることになる。対米交渉では時間を稼ぎ、他方でTPP11をはじめ米抜きの自由貿易枠組みを固める戦術が依然有効だ。

 もう一つの会談の柱、北朝鮮問題も、状況は厳しい。直前にポンペオ長官による平壌訪問が判明し、トランプ大統領も「自分こそ歴史的な取引ができる」と米朝首脳会談に前のめりのなか、日本政府は原則論を確認するに留まったかにみえる。完全で検証可能、引き戻ることのない核廃棄(CVID)、さらにミサイル脅威の除去が実現できない限り、制裁による圧力を緩めてはならない。ただし、過去の過ちを繰り返したくない米政府は十分にこの点を理解しており、他方でトランプ大統領がそのような立場に得心がいったとはみえない。拘留されている3名のアメリカ市民の解放、核実験停止、大陸間弾道ミサイル開発停止、核実験場の廃止などを条件に、北朝鮮は信頼を得て最初の取引を作ろうと動いている。トランプ大統領にしても金正恩と会うだけで歴史を作っていると考えている節があり、手ごろな成果を求め、側近たちの求める慎重姿勢に耳を貸さない可能性がある。米朝首脳が段階アプローチに近い非核化の約束しか得なかったとすれば、日本は堂々と不十分な合意を批判し、周辺国が制裁解除等のアメを北朝鮮に易々と与えないよう訴えなければならない。日本自らの防衛力強化もさらに求められよう。もし合意が日本にとって満足できる内容であれば、日朝交渉に速やかに移るべきだ。乗り遅れているとの議論は当たらない。日朝関係は北朝鮮にとっても必要なピースであり、時機の見定めが肝要だ。

 最後に米朝が決裂した場合だが、その際には圧力路線の強化を求め、安易に米国が軍事力に頼らないよう説得する必要もある。 米朝首脳会談の結果がどちらの方向に振れたとしても対応できる準備を日本は進めるしかない。



RIPS' Eye No.226

執筆者略歴

さはし・りょう 国際基督教大学卒業。東京大学大学院修了、博士(法学)。オーストラリア国立大学、スタンフォード大学等での研究教育を経て現職、神奈川大学アジア研究センター所長。専門は米中関係、アジア太平洋の安全保障秩序。著書に『共存の模索—アメリカと「2つの中国」の冷戦史』(勁草書房)。当研究所安全保障研究奨学プログラム第13期生。

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