「日本学術会議は国防に尽くす科学者を疎外している」

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徳田 八郎衛(元防衛大学校 教授)

 今年4月、日本学術会議幹事会は1950年の「戦争を目的とする科学の研究には絶対に従わない」、1967年の「軍事目的のための科学研究を行わない」の二つの同会議声明を継承する「軍事的安全保障研究に関する声明」を採択した。声明に対する賛否を総会で採決して問うべきだとする声は抑えられ、総会では報告にとどめた(拙稿「『安全保障と学術』の討論会に参加して」、偕行、2017年4月)。さらに「防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度は、問題が多い」と訴えた。自衛隊の存在を国民の9割以上が支持し、有力野党の指導者も合憲と認める今日、「今なお軍事アレルギー」と揶揄する評論が飛び交うのも当然だが、その決定過程についても大きな疑問が残る。

 この声明は、「科学者コミュニティ」への呼びかけであるが、その定義は伏せられたままである。実は、これについて検討委員会の発足直後に早速論議されている。焦点は、企業の研究者や防衛省の科学者も含めるのか、除くのか、にある。「私たちは、84万人の科学者を代表する学術会議と謳っている。企業や官公庁の科学者も含めないと84万に達しない」との大西隆会長の明確な回答で解決したかに見えたが、その後の研究会に招聘された、ある説明者の「大学や研究機関の、自由な研究ができる環境の科学者に限定すべき。防衛省や企業で命じられた研究に携わる科学者は含めるべきでない。是非お願いしたい」の一声で一転した(日本学術会議『安全保障と学術に関する検討委員会第6回議事録』平成28年11月18日)。これについては異議が出たが、委員長の「短時間で議論しづらい」で押し切られている。

 ダイバーシティ(多様性)を重んじる同会議が、科学者コミュニティを大学人だけの会と勝手に定義し、企業の科学者を除外するのは、同会議の役割である「科学者間ネットワークの構築」を放棄するものではないか。また所属を問わず、国防に貢献する研究を志す科学者を疎外するのは、声明や報告で声高に主張する「研究の自由」を侵すものではないか。一部の委員からも度々指摘されているように、同推進制度への応募は強制ではなく、各研究者の自由裁量なのだ。それを大学単位で枠をはめ、応募させないというのだ。「自由な研究ができる環境」ではないではないか。また外国人学生が増加しているので同制度は不適切というのも筋違いで、研究室の事情があれば、応募しなければいいのである。それをいうならば、大学は安全保障貿易管理にも対応できないことになる。
 南スーダンでは、2013年に避難民が保護を求めてPKO施設に駆け込んだ。このため、国連は史上初めて文民保護区(PoCサイト)を設置した。2016年7月には、武装攻撃を受けた市民や国連職員が保護を求めたにもかかわらず、UNMISSは人々を十分に保護せず批判を浴びた。現地で活動する援助機関職員など邦人も避難を余儀なくされた。

 この検討委員会のボタンのかけ違いは、「現行憲法下での自衛権・自衛隊の存在を認め、これを共有した上で議論を進めよう」とする大西会長の提案を、「自衛の定義がない」、「近年の軍事紛争は、すべて自衛の名で行われた」という、憲法調査会でも取り上げられないような屁理屈で葬ったことから始まった。その結果、「非武装平和主義的思考(西原正「軍事研究禁止は国を弱体化する」『産経新聞』2017年5月17日」に終ったが、「同推進制度への応募者も後ろめたいはず」という議事録に度々見られる表現は、あまりにも失礼ではないか。前大戦における英国の防空委員会や、それから分岐したオペレーション・リサーチ委員会へ自発的に参加した研究者たちは、パイロットと並ぶ救国の英雄となったのだ。現在の日本も、当時の英国に劣らぬ深刻な状況にあることを科学者コミュニティの皆さまに是非認識して頂きたい。

RIPS' Eye No.218

執筆者略歴

とくだはちろうえ 京都大学大学院理学研究科博士課程地球物理学専攻満期退学、防衛省技術研究本部、陸幕、統幕等で装備研究開発や技術情報に従事。元防衛大学校教授、防衛研究所所員。1993年退官。主な著書・共著書に、『間に合わなかった兵器』(東洋経済新報)、『大国ロシアになぜ勝ったのか』(芙蓉書房)『中国をめぐる安全保障』(ミネルヴァ書房)など。

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