「自衛隊の南スーダン派遣:国連PKOの潮流を踏まえた事後検証を」

写真(井上実佳加工).jpg

井上 実佳(東洋学園大学 准教授)

 2017年5月、陸上自衛隊・施設部隊が南スーダンPKO(UNMISS)からの撤収を完了した。5年以上にわたり、のべ約4000名が首都ジュバで道路や国連施設のインフラ整備などを行った。

 南スーダン情勢が悪化する中、UNMISSは南スーダン各地で活動中である。自衛隊も司令部要員を引き続き提供している。今後も、南スーダンの安定と発展のために、安全保障・開発・人道など様々な分野で取り組みが行われるだろう。今回の自衛隊UNMISS派遣でどのようなことが浮き彫りになっただろうか。一言でいえば、日本国内で国連PKOは十分理解されていない。国連PKOの潮流をふまえ、PKOが紛争国・社会でどのような役割を果たしているのか、その中で日本が何をすべきかという観点を持つことが重要だ。

 1948年に国連休戦監視機構(UNTSO)が中東に展開して以来、国連PKOには長い歴史がある。1990年代以降、国連PKOに2つの潮流が生まれた。まず、「文民保護」(Protection of Civilians: POC)任務が常態化している。国連安全保障理事会(安保理)は、決議でPKOに国連憲章第7章を適用し、実力行使を伴ってでも一般市民を保護する任務を課している。いまや、国連PKOは中立であることよりも、すべての紛争当事者に対して公平・不偏不党かつ毅然と対処する原則をとっている。

 南スーダンでは、2013年に避難民が保護を求めてPKO施設に駆け込んだ。このため、国連は史上初めて文民保護区(PoCサイト)を設置した。2016年7月には、武装攻撃を受けた市民や国連職員が保護を求めたにもかかわらず、UNMISSは人々を十分に保護せず批判を浴びた。現地で活動する援助機関職員など邦人も避難を余儀なくされた。

 第2に、国連加盟国の間でPKOへの軍事・警察要員(以下、要員)派遣をめぐる国際分業が進んでいる。現在、主に要員を派遣しているのはエチオピア、インド、パキスタン、バングラデシュ、ルワンダといった国々である。先進国は幹部要員など知識・技術・経験を提供するポストや文民を派遣する傾向にある。このような分業も、アフリカに展開するPKOで顕著である。

 以上のような国連PKOの潮流に日本が対応するためにはどうすればよいか。まず、今回のUNMISS派遣の事後検証が不可欠である。要員の経験は、今後のPKO参加を検討する上で貴重な資料である。国民にとっても今後の国際平和協力政策を論議する材料となるような検証結果を公表することが肝要である。

 UNMISSに日本の自衛隊が参加したことは、南スーダンの平和構築を多国間で行う観点から重要であった。撤収の決定は日本国内の論理では妥当な判断といえるが、国連PKOを持続的に展開するという観点からは、また一つ要員提供国が減ったという損失でもある。


 日本の決定がそのような意味を持つことも忘れてはならない。駆けつけ警護任務の付与についても、文民保護が常態化しているアフリカの国連PKOで遂行する難しさをUNMISS派遣の事後検証と関連付けて議論する必要がある。

 南スーダン支援はこれからが正念場だ。日本の南スーダンへの関与が相手国、国連にとってどのような意義を持ったのか、自衛隊撤収後の現地情勢に照らしながら検討すべきである。学界は、国連PKOについて、地域研究、歴史学、経済学、文化人類学、環境や生態系に関する研究など多くの分野を巻き込んだ、実質的かつ視野の広い研究を行うことが不可欠であり、責任は重い。

RIPS' Eye No.217

執筆者略歴

いのうえ・みか コロンビア大学SIPA訪問研究員、外務省調査員、広島修道大学法学部准教授、広島平和研究所客員研究員等を経て現職。専門は国際政治学、国際組織研究。特に、PKOの変遷とアフリカの紛争など。当研究所日米パートナーシップ・プログラム第1期(通算第15期)生。

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