日本は核拡散に対抗する相互確証破壊戦略を

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村井 友秀 (東京国際大学 教授 )

 現在の日本が直面する最大の脅威は隣国の大量破壊兵器である。日本は核兵器を保有する国家によって包囲されている。

 そもそも核兵器とはどのような兵器なのか。大量破壊兵器の中で、化学兵器と生物兵器は化学兵器禁止条約と生物毒素兵器禁止条約によって使用が禁止されている。しかし、核兵器に対する国際社会の反応は異なる。日本では核兵器は道徳的に悪であり、核兵器の是非を議論することもタブーである。他方、核兵器に対する国際社会の常識は、「核兵器による威嚇・使用は一般的に国際法に反するが、国家の存亡が懸かる自衛の為の極限的状況下での核使用は合法・違法とも言えない」(国際司法裁判所)というものである。

 また、化学兵器や生物兵器の使用禁止を担保する最も効果的な手段が核兵器と考えられている。核兵器は、化学兵器や生物兵器よりも大きな破壊力を持つ唯一の兵器であり、化学兵器や生物兵器の使用者を確実に破滅させることができる。

 さらに、核兵器には別の側面がある。米国の国際政治学者(ケネス・ウォルツ)は「核兵器が存在しない通常兵器の世界では、最強の国家に匹敵する経済力を持つ国家のみが大国の地位を得ることができるのに対して、核兵器が存在する世界では、最強の国家の半分以下の経済力の国家でも大国の地位を保持することができる」と主張している。核兵器は低コストで通常兵器の劣勢を相殺する。1平方キロに展開している敵を殲滅するために、通常兵器を使用すれば2,000ドル、核兵器では800ドル、化学兵器では40ドル、生物兵器では1ドルかかる。すなわち、核兵器は貧乏国には魅力的な兵器である。「低レベルの核抑止は南アジアの平和と安定への最も安価な選択である」(シャリフ・パキスタン首相)という意見もある。他方、「米国は通常兵器の分野で圧倒的に優位な立場に立っている。したがって、核兵器を全廃し、通常兵器のみが存在する世界になれば、米国の優位は万全になる」という意見も米軍の中に存在する。

 日本の周辺には、金のかかる近代的な通常兵器を保有できず安価な核兵器に頼ろうとする貧乏な国家や、超大国を目指して豊富な資金を投入し急速に核兵器の近代化を進める国家が存在する。何れにしても、現代世界では国家が最高の権力を持っており、これらの国家に核兵器を放棄するように命令できる機関は存在しない。したがって、これからも核武装を図る国家は現れるだろう。]

  このような国家を抑止するためには、自国の核兵器で対抗する相互確証破壊戦略が最も効果的である。核兵器による対決であった冷戦時代、核兵器による相互確証破壊が「長い平和」を支えたことは歴史的事実である。相互確証破壊の本質は、戦争になればお互いに耐えられない損害を被るということであり、お互いの国の核心的利益が破壊されるということである。隣国は既に核兵器で日本を攻撃する能力を持っている。他方、隣国の核心的利益は共産党支配の維持である。軍隊や警察といった暴力装置によって国民を支配している独裁政権は、戦争によって暴力装置が打撃を受ければ、不満を持つ国民を抑えることが困難になり、共産党支配は動揺するだろう。

 核兵器の使用は政治的敷居が高く、まともな国家ならば核兵器による報復を躊躇するだろう。躊躇わずに使用でき報復の信頼性を高めるためには核兵器以外の手段による相互確証破壊を追求すべきである。新技術を活用した無人兵器と精密誘導兵器による攻撃システムは、市民の付随的損害を極小化して統治機構の中枢に大きな打撃を与えることができる。日本に対する核攻撃を抑止するためには、相互確証破壊を保証する非核兵器を日本が配備することが望ましい。



RIPS' Eye No.214

執筆者略歴

むらい・ともひで 東京大学大学院社会学研究科博士課程国際関係論専攻満期退学、防衛大学校教授、防衛大学校人文社会科学群長等を経て、2015年退官。現在防衛大学校名誉教授、東京国際大学教授。主な著書に、『現代の国際安全保障 安全保障学のフロンティアⅠ』(編著、明石書房、2007年)『中国をめぐる安全保障』(編著、2007年、ミネルヴァ書房)など。

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