トランプ新政権と日本―米国の戦略的調整期における同盟国の役割

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森 聡 (法政大学 教授 )

 2017年1月に発足したトランプ政権は、「米国第一」や「力を通じた平和」をスローガンに掲げて対外政策を追求するという。今後どの程度の成果を上げるのかは分からないが、米国は対外関係の調整期に入ったとみていいだろう。ただし、それは米国がいきなり全方位的な関与後退(retrenchment)へと突き進むことを意味しない。むしろ米国の国益を増進するのに役立つ対外関係を、米国に有利な形で再編しようとする戦略的な調整が進行しつつあるとみた方がよいのではないか。こうした傾向は、既にオバマ政権期から顕れていた。

 トランプ政権が米国の覇権を二国間で再交渉しようとする戦略的調整を進めるとき、米国は「リベラル・ヘゲモン」から「プリミティブ・ヘゲモン」に化けたかの如く映るかもしれない。また、米国が二国間関係の調整に専念すれば、第三国間の問題への関心が希薄化したかのように映ることもあるかもしれない。しかし、そうした時においても、米国と距離を置くべきではない。米国政府が多元的であり、いわゆるリベラル国際秩序を保全ないし推進しようとする勢力がワシントンの官僚機構や連邦議会、そして政府外にも存在する事実に目を向けて、巧みな対米外交を展開すべきだ。

 では戦略的調整期にある米国と同盟国、とりわけ日本はいかに付き合うべきなのだろうか。日本を含む米国の同盟国がこれまで長年リベラル国際秩序から裨益してきたのだとすれば、米国政府を積極的に支援しながら、「リベラル・ヘゲモン」としてのアイデンティティの保全を慫慂するとともに、同盟国がリベラル国際秩序を構成する価値規範を推進・執行する担い手となるべきだ。こうした視点に立つと、安倍総理の2月訪米の成果は二つあると言える。

 第一に、日米共同声明を通じて、リベラル国際秩序にまつわる様々な主題を踏襲する方向へとトランプ政権を導いたのは大変重要な成果である。例えば、法の支配に基づく国際秩序や海洋秩序を維持する重要性、海洋における航行と飛行の自由や、自由かつ公正な貿易に関するルールに基づいた日米間及び地域的な経済関係の強化などを日米首脳は強調した。無論、今後も予断を許さないが、こうした規範やルールを日米両国が尊重することが首脳文書で確認されれば、リベラル国際主義を希求するワシントンの勢力は、その路線の政策イニシアティヴを正統化しやすくなる。

 第二に、トランプ政権に、アジア太平洋地域でのプレゼンスを強化するという意向を表明させ、また日本が同盟において一層の役割と責任を引き受ける意向を明らかにしたことも重要な成果である。日米はこれからいわゆる「2+2」を開催し、役割・任務・能力の見直しに入ることとされたが、日本はリベラル国際秩序を支えるために自国が果たすべき安全保障上の役割とは何か、そしてそのためにどの程度のコストを引き受けるべきかという根本的な問題意識に立ち返って、この見直し作業に臨むべきであろう。日本をはじめとする同盟国が、米国の国益を増進する規範の担い手として頼れる存在であることを示すことは、調整期米国の政権や世論に、同盟や国際秩序を重んじる意識を植え付けることにもつながる。日本の防衛努力が、法の支配に基づく国際秩序の維持という大義名分と符合するとき、それは単に対抗相手を抑止するのみならず、規範を共有する地域諸国に安心を供与し、米国内のリベラル国際主義を強化するという重要な効果を持つことを忘れるべきではない。


RIPS' Eye No.213

執筆者略歴

もり・さとる 1995年京都大学法学部卒業、同大学院法学研究科修士課程及び米コロンビア大学ロースクールLL.M.課程修了。外務省を経て、2008年に法政大学法学部准教授に着任。2010年より現職。米プリンストン大学(2014-2015)及びジョージワシントン大学(2013-2015)に客員研究員として在籍。単著に『ヴェトナム戦争と同盟外交―英仏の外交とアメリカの選択、1964-1968年』、東京大学出版会、2009年。2015年中曽根康弘賞奨励賞受賞。当研究所安全保障奨学プログラム第11期生。

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