沖縄社会と基地の安定のための行動が必要

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植村 秀樹 (流通経済大学法学部 教授)

 内閣府は、2017年度予算の概算要求で沖縄振興予算を今年度当初予算より140億円原減額することを決めた。同予算が概算要求の段階で前年度より少ないのはこの10年では初めてのことである。予算がすべてではないが、沖縄に対する安倍政権の姿勢がここに表れている。

 理由は言うまでもない。辺野古への新基地建設をめぐる翁長現知事との対立である。安倍政権は歴代政権の姿勢を転換し「基地問題と沖縄の振興はリンクする」と菅官房長官が参議院選挙の後で発言している(このタイミングも安倍政権らしい)。「沖縄に寄り添う」と幾度、安倍首相自身が口にしてきたことか。

 この3年間、選挙のたびに、沖縄は辺野古建設に「否」を示してきた。それでもなお建設を進めるのは「基地負担の軽減」ではなく、米国との約束の履行のためである。その約束とは、遡れば1995年9月に起きた少女集団強姦事件に行きつく。これを機に普天間飛行場の返還に道が開かれた。普天間返還を含む基地の整理・縮小は「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO)を通じて政府間の合意となった。SACOから約10年後には、在日米軍再編の実施のための「ロードマップ」が合意され、さらに2013年4月には「沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画」も作成された。米軍再編では海兵隊の実働部隊の多くがグアムに移転することとなったが、それでも辺野古への基地建設はいささかも変わらない。

 事態が一向に進まないのは、沖縄の人々が納得していないこと、さらに政府の強硬な進め方に強い反発が出ているからである。現地の人々に受け入れらない基地では、将来にわたってその機能を十分に果たすことができるか危ぶまれることにもなりかねない。

 私は2013年9月から翌年3月にかけて半年ほど沖縄で暮らした(拙著『暮らして見た普天間』参照)。普天間飛行場の間近に居を構えて、オスプレイなどの発着や訓練を目にし、耳にした。そうした経験を通じて、基地は沖縄にとって負担となっているばかりではなく、沖縄社会をゆがめていることを痛感した。米兵による事件・事故が後を絶たないこと、基地の運用に関する取り決めを米軍が守らないことなど、基地による直接的な被害のほか、不労所得である軍用地料が人々の暮らしや意識に与える悪影響なども知ることができた。これに対して、沖縄経済における基地関連の収入の占める割合は5%ほどである。

 先日、沖縄問題を取り上げたラジオ番組に出演した時のことであるが、私と同席した元外務省高官は「これは国と国との関係だ」と政府間関係の優先を強調した。その通り、これは国と国の関係であり、そうである以上、政府間の約束は重要である。しかし、「国」とは国民をも含むものであろう。沖縄の人々も日本の国民である。national securityとは、国民の安全を政府が保障することであり、ワシントンの要求に東京(永田町・霞が関)が応えるというだけの問題ではない。

 そもそも、沖縄は日本防衛を目的に基地化されたわけではなく、海兵隊は日本防衛のために沖縄に駐留したわけではない。今日まで続く基地の沖縄への集中は、あくまで政治的理由によるものである。特に海兵隊は、海空軍と違い、日本の安全保障に果たす役割はきわめて小さい。「地理的優位性」などは無視しうる問題に過ぎない。沖縄の基地の大半は、米軍にとって便利ではあっても、日本の安全に不可欠なわけではないのである。

 今の膠着状態を抜け出す道は、安倍政権のような強硬策ではない。計画がすでに破綻していることを素直に認めることから始めなければならない。力ずくで基地を建設したところで、沖縄の不満はますます高まり、基地の運用ひいては国民の安全に悪影響が出るおそれさえある。沖縄の人々も含めた国民の安全保障という観点から、あらためて米軍基地の問題を見直すべきである。それには、米国、日本政府、そして沖縄の三者が対等に参加する第二次SACOが必要なのではあるまいか。

RIPS' Eye No.209

執筆者略歴

うえむら・ひでき 早稲田大学法学部卒業。青山学院大学大学院博士課程修了。現在、流通経済大学法学部教授、博士(国際政治学)。主な著書に『暮らして見た普天間』、『「戦後」と安保の60年』、『再軍備と55年体制』など。当研究所安全保障奨学プログラム第4期生。

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