パリ同時多発テロ以降の国際安全保障:テロ対策でも日欧協力の強化を

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小窪 千早(静岡県立大学 国際関係学部 講師)

 2015年11月13日にパリで起きた同時多発テロは、フランスのみならず欧州そして世界の安全保障に大きな影響を及ぼした。事件後にオランド大統領は両院合同議会を開き、演説の中で「フランスは戦争状態にある(”la France est en guerre”)」と述べた。そして議会は非常事態宣言の3か月延長を承認し、フランスは現在も非常事態宣言下にある。

 パリの同時多発テロの特徴は、外からのテロリズムと内なる「ホームグロウン・テロリズム」の混合形態の様相を帯びているところにある。今回のテロは、IS(いわゆる「イスラム国」)によって組織的かつ周到に計画されたテロであると同時に、実行犯の多くはフランスまたは隣国ベルギーで生まれてその国の国籍を持つ人々であり、社会への不満からISと繋がってテロに加わった者たちである。そしてインターネットやSNSを通じて、社会に不満を持つ人々とテロリストとが、かつてないほど結びつきやすくなっている。このようなテロへの対処は非常に難しく、複合的な対策を必要とする。テロの策源地であるISの壊滅を図ることはもちろん必要であるが、同時にフランス国内またはEU域内の社会的な問題にも目を向ける必要があり、それは非常に息の長い関与を必要とする。

 この事件はフランスのみならずEUの社会全体にも大きな影響を及ぼしている。テロリズムと難民の件を安易に結びつけることには注意しなければならないが、昨年以来多くの難民がEUに流入する中で、今回のパリでのテロの実行犯の中に難民申請中の者がいたという事実は、EU各国において難民の受け入れ政策に対し厳しい目を向けることに繋がった。EUでは多くの国で反EU・反移民を政策に掲げるポピュリズム政党が勢力を伸ばしており、その傾向は近年ますます強まっている。シェンゲン協定の見直しを模索し、再び国境管理を行おうとする動きが出てきており、EUの連帯と欧州統合の大きな成果のひとつである域内の自由移動の原則が、大きな試練に直面している。

 パリでのテロを受けて、EUはフランスの要請に応じてリスボン条約のTEU42条7項の集団防衛条項を初めて適用した。この42条7項は包括的なものであり、必ずしも軍事的な対処を意味するものではないが、この条項に基づきEU各国がフランスを支援している。EUは域内のテロ対策についても対応を強化しており、欧州警察機構(ユーロポール)は今年1月25日に「欧州テロ対策センター」を新設した。EUは現在、外交安全保障戦略の見直しを行っているところであり、今年6月にはテロ対策も含めて新しい方針が示される見込みである。

 現在、ヨーロッパのみならずアジアを含む世界各地でテロが起こっており、かかる状況は日本にとっても決して他人事ではない。日本も国際社会と協力して対処する必要がある。日本にはもちろん種々の制約があるが、現在のテロリズムが極めて複合的な性格を帯びたものであることを考慮すると、日本にも為しうることはいろいろある。近年、日欧間の安全保障協力が少しずつ進められているが、テロ対策の分野でもさらなる協力の可能性がある。その分野については、日本とEUとの協力を推進するとともに、近年始まった日仏および日英の外務・防衛閣僚会合(「2+2」)も重要なパイプとなるであろう。日仏の「2+2」は2014年1月に始まって既に2回行われており、また日英の「2+2」は昨年2015年1月に始まり今年1月8日に2回目の会合が開かれた。いずれも安全保障の問題について幅広く協議がなされ、テロ対策についても協力が確認されている。こうした機会を通じて、テロ対策を含む安全保障の分野で日欧ひいては日米欧の連携を着実に強化していくことが重要であろう。

RIPS' Eye No.203

執筆者略歴

こくぼ・ちはや 京都大学大学院法学研究科修士課程修了、同博士課程単位取得退学。京都大学大学院法学研究科助手を経て2004年より現職。(財)平和・安全保障研究所奨学プログラム第11期生。専門はドゴール時代を中心としたフランス政治外交およびEU・NATOをはじめとする欧州の安全保障。

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