NPT形骸化の危機を超えて:日本の軍縮・不拡散外交に高い戦略性を

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秋山 信将(一橋大学大学院 法学研究科 / 国際・公共政策大学院 教授)

 今年は、被爆70周年ということで4月から5月にかけてニューヨークで開催された核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議に注目が集まった。結果は、中東問題をめぐって鋭く対立し、最終的には最終文書の合意が得られず決裂することになった。同時に、核軍縮をめぐる二極化という、深刻かつ構造的な問題も顕在化した。すなわち、核軍縮推進のために核兵器の非人道性の問題を前面に打ち出し、核兵器を禁止する法的な枠組み(核兵器禁止条約など)を作り、期限を切った核廃絶を目指すべきと主張する「人道グループ」と、戦略的安定性や核抑止といった概念が相互の関係を安定化させると主張し、現実的なステップを通じて核軍縮を長期的に目指すべきという核兵器国などの間の深い溝である。

 人道グループは、核の非人道性の観点から、核兵器を非正統化し、安全保障政策において核抑止への依存を捨てることを核兵器国や、日本およびNATO諸国といった拡大核抑止に依存している国に迫った。しかし、このような規範論的アプローチは、現下の核を取り巻く安全保障環境の現実との間に極めて大きな隔たりがあることも事実である。

 ロシアの安全保障政策における核依存はより明瞭になり、それに対しNATOは核ドクトリンの見直しを示唆した。また、2018年に失効する新STARTの後継条約をめぐる協議も、交渉のアジェンダの設定をめぐり難航している。中国は引き続き戦略原潜の導入やICBMの多弾頭化などで核戦力の近代化および残存能力の向上を図っている。

 さらに、インドとパキスタンのライバル関係、北朝鮮の核開発、イランの核問題とそれをトリガーとする中東における核拡散のリスクなど、核軍縮・核不拡散における地域安全保障の文脈が一層重要になってきている。核保有国が軍事戦略においても政治戦略においても核兵器への依存度を増していることが、核拡散を促すような地域安全保障環境が醸成されつつある一因と見てもよい。

 唯一の被爆国であり、なおかつアメリカの拡大核抑止を自国の安全保障政策の中で引き続き重視する日本の軍縮外交は困難な状況にあると言ってよい。日本は、1)当面の脅威に対処するために拡大核抑止の信憑性を維持する同盟政策を追求し、2)NPTにおける二極化を緩和し、一体性を維持するため、先鋭的な非核兵器国と核兵器国との間で合意が可能な核政策(ドクトリン)への人道的配慮の取り込みの方策を探り、さらに3)核兵器の役割の低下を促すような、それでいて過激な核政策の変更による安全保障環境不安定化への懸念を惹起させない核軍縮の論理を構築することが同時に求められる。こうしたアプローチには、パブリック・ディプロマシーの要素も含む高い戦略性が求められる。日本を取り巻く今の核をめぐる安全保障環境は、日本の軍縮外交に高度な総合戦略性を求めている。

RIPS' Eye No.199

執筆者略歴

あきやま・のぶまさ 広島平和研究所講師、日本国際問題研究所主任研究員などを歴任。RIPS奨学プログラム9期生。専門は、核不拡散・核軍縮。

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