米印協力のカギは日本にあり

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長尾 賢(公益財団法人 東京財団 研究員)

 今月、米印海上合同軍事演習マラバール(2015年)に日本も参加する手続きが始まった。日本は過去、2007年、2009年に参加しており、2011年は東日本大震災で参加できなかったが、断続的にこの演習に参加し続けている。

 米印関係に日本が関加わるのは、この演習だけではない。2011年以降、日米印協議とよばれる外務官僚レベルの戦略対話も、すでに7回行われている。今月、ジョー・バイデン米副大統領が、この協議を外相級に格上げする意志を示した。日米印の枠組みは重視されつつある。
しかし、なぜ日本が加わるのだろうか。米印関係に日本が加わることで何かプラスになるのだろうか。米印緊密化の背景には中国の台頭があるとみられ、対中戦略上、日本が加わることはプラスだ。だが、それだけではない。忘れてはいけないもう一つのプラス効果がある。実は米印関係には二つの不安定性があり、日本が加わることでそれが緩和される可能性があるのだ。

 米印関係における一つ目の不安定性とは、アメリカがインドに抱く不信感だ。米印関係は緊密化しつつある一方で、インドは「非同盟」を盾に緊密化しすぎないよう歯止めをかけているようにもみえる。しかもインド軍が保有する武器の約70%が旧ソ連・ロシア製である。武器は弾薬を必要とするし、精密機器なのに乱暴に扱うから、弾薬や修理部品の供給に依存する。70%という数字は、インドが安全保障上、ロシアに深く依存していることを示している。米露関係が悪化する今日、アメリカとしては印露関係を気にせざるを得ない。

 実はインド側もアメリカに対して不信感を持っている。これが二つ目の不安定性だ。そもそもインドとアメリカの関係は過去、揺れ動いてきた。1947年にインドが独立してから、米印関係は良好友好で、1962年の印中戦争では、インド支援のために米空母が派遣され、空軍や情報機関の間でも協力関係にあった。しかし、1965年の第二次印パ戦争においてアメリカは、対印パ武器禁輸を行った。そして1971年の第3次印パ戦争においては、アメリカは事実上パキスタン側に味方し、空母を派遣してインドを威嚇した。冷戦後になって米印関係は緊密化したが、依然としてアメリカはパキスタンに武器を輸出している。インドからみると、アメリカの態度に不信感をもつ結果になっている。

 そこで両国は日本に期待している。日本は米印両国の不安定性を緩和し得る潜在性を持っているからだ。まず日本は、アメリカにとって長期にわたる信頼できる同盟国だ。そしてインドにとっても日本は、かつて独立運動を支援し、中国を背後から牽制してくれる信頼できる友好国である。だから米印両国の関係が若干悪くなった時があっても、日米、日印関係は良好なままと考えられる。日本がいわば「ちょうつがい」になって日米印の枠組みを維持することができる安定的な存在なのである。

 この安定性は重要だ。日米印の関係が安定していれば、長期的に基礎固めしながら米印関係を深める時間的余裕が生まれるし、時々、決定的なチャンスもめぐってくるからだ。最近、そのチャンスの一つが現れた。ロシアがパキスタンへ戦闘ヘリコプターを輸出する交渉を始めたのだ。インドはロシアに抗議している。このような機会は日米にとって利用可能だ。日米はインドに積極的に武器の共同開発、共同生産をもちかけ、ロシアへの依存状態を切り崩すべきである。具体的には、インドが進めるミサイル防衛、空母、潜水艦、掃海艇、練習機などの整備は、日米が協力可能な分野である。そして特に、ロシアが得意とする潜水艦の分野で、日本がインドの武器体系に食い込むことができれば、印露の武器取引関係に一定のくさびを打ち込んだことになろう。機を見て敏なり、チャンスは積極的に利用し、日米は対印友好関係を高めていくべきである。

RIPS' Eye No.196

執筆者略歴

ながお・さとる インドの軍事戦略を研究し、2011年、学習院大学より博士号取得。2015年より東京財団研究員(元海洋政策研究財団研究員)、学習院大学講師(安全保障論、非常勤)。著書『検証 インドの軍事戦略−緊張する周辺国とのパワーバランス』(ミネルヴァ書房、2015年)。

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