中国は脅威ではない-望まれる冷静な対応

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児玉 克哉 (三重大学 副学長・地域イノベーション学研究科 教授)

 急速な経済発展とともに中国の覇権主義が注目を浴びている。アジアインフラ投資銀行は言うまでもなく中国主導の投資銀行であり、日米が主導するアジア開発銀行に対抗するものといえる。中国マネーをベースにアジアのインフラ整備の主導権を握ろうとしている。

 軍事的にも中国の覇権主義は加速している。中国と隣接する国との領有権をめぐる衝突が顕在化している。中国とベトナムはともに領有権を主張する海域で激しい争いをしている。この海域で中国は巨大な石油掘削装置を設置し、これに抗議するベトナム船と中国船がにらみ合いを続けている。フィリピンでもスカボロー礁の領有権をめぐり、2012年に中国船がフィリピン漁船に衝突されるという事件を経験した。中国はインドとも国境問題で衝突している。2013年にカシミール地方のダウラト・ベク・オルディ地区に中国軍の部隊が侵入し、両軍隊の睨み合いが続いた。経済成長目覚しいASEAN諸国やインドと中国の関係は国境問題も絡み、不安定である。

 中国の覇権主義に対してアメリカは大きな関心を持っている。軍事化を進め、巨大な経済力を持つ可能性のある中国は将来、覇権を争う国となりうる。

 中国は日本にとってあまりに近い国であり、国民感情的にも不安定な国である。すでに第二次世界大戦から70年が過ぎ、徐々に両国の国民感情は未来志向になると考えていたが、期待は裏切られている。最近は中国に韓国が同調をして反日キャンペーンを張っている。厄介な状況だ。

 日本はどうすればいいのか。中国とアメリカとの状況を冷静に分析し、しっかりとした平和戦略を持つことが大切である。

 中国の現在の覇権主義のベースとなっているのは経済発展によるマネー力である。しかし現在の中国経済は相当にバブル的要素が入っている。真剣に中国の金融危機が囁かれている。最大のポイントはシャドーバンキングの資金運用額の増大である。シャドーバンキングからの資金運用が実質的な部分を占めると利子だけでも半端ではない。すでに起こっているのが不動産バブルの崩壊だ。中国全体で不動産価格が下がってきた。地方ではゴーストタウンが出現している。中国経済の根本を揺らすレベルの現象になっている。

 中国に集まった資金の海外流出も問題である。不動産バブルの崩壊が起こり始めると、資金は中国からより安全なところに動く。つまり中国が拠り所にしてきたマネー力は急速に衰えるのだ。この状況下で中国は国内の治安を守ることができるのか。バブル崩壊が起きた時には混乱があると危惧される。

 アメリカとは大きな差がある。アメリカも幾度も不況の波にさらされてきた。リーマンショックは記憶に新しい。しかし成熟した国といえるアメリカでは国内の混乱は限定的であり、それらを乗り越えることができた。

 国際的な連携についてみてみよう。アメリカは歴史的にもヨーロッパと非常に強い連携を持っている。経済、軍事、政治、文化など全ての分野で関係は安定している。日本との関係も非常に強い。アメリカはASEANとは国によっては微妙な時代を経ながらも、今ではかなり安定している。インドとの関係も悪くない。

 他方、中国とこれらの国々との関係は微妙である。中国は多くの国と国境を接しており、歴史的にも領土をめぐって争った国が多くある。ASEAN諸国、インド、ロシア、日本などとは領土問題で今でも火種を抱えている。ヨーロッパとはまだまだ遠い関係といえる。軍事的な連携となるとさらに厳しい。中国と明確な軍事同盟的関係を持つ国はないといっていい。北朝鮮でさえ微妙な関係である。

 今の状態を見る限りでは中国はアメリカに対抗できるレベルには全く達していない。中国の脅威に踊らさられる必要は全くないのだ。日本のとるべき道は明確である。安全保障の面では日米安保を安定したものとし、アジアの平和の維持を図ること、そして中国と敵対するのではなく、経済、文化の交流で、「冷戦」を解消していく努力をすることである。中国は脅威ではない。しかし中国の脅威に踊らされて対応を間違うと、事態は悪化し、新たな脅威が生まれうる。

RIPS' Eye No.194

執筆者略歴

こだま・かつや 三重大学副学長・地域イノベーション学研究科教授。専門は地域社会学、市民社会論、NGO論、国際平和論など。国際的なウエッブテレビ局であるUBrainTVの創業者であり、国際的な活動も活発である。

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