自衛隊の海外活動拡大:国益擁護の観点を一層強化せよ

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宮岡 勲(慶應義塾大学 法学部 教授)

 現在、日本の安全保障法制の整備と「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)の改定が同時並行的に進められている。これらの作業を後押ししているのが、「国際協調主義に基づく積極的平和主義」という、日本の国家安全保障の基本理念である。なぜこの理念が基本なのか。日本政府が初めて2013年末に策定した「国家安全保障戦略」によれば、「我が国の平和と安全は我が国一国では確保できず、国際社会もまた、我が国がその国力にふさわしい形で、国際社会の平和と安定のため一層積極的な役割を果たすことを期待している」のだという。同文書では、基本理念が国益の定義の前に語られている。

 積極的平和主義は、英語では「Proactive Contribution to Peace」と訳されていることからも分かるとおり、国際貢献の一種と考えられている。昨年7月の閣議決定でも、国連安保理決議に基づき武力行使を行っている他国軍隊に対して自衛隊が支援活動をできるようにするなど、「国際社会の平和と安定への一層の貢献」が安全保障法制の整備目標の一つとなっている。

 国際貢献は、理想主義的な言説である。大山貴稔氏による最近の論文(『国際政治』第180号)から引用すれば、「『国際社会』における『責任』を果たす『公共財』への関与を説くもの」であり、「『国益』という観点は希薄」である。国際社会が存在し国家はその成員の一員として義務を負うという世界観は、国際関係は無政府状態(アナーキー)であり、対外政策の目的は国益によって定義されなければならないとする現実主義的なそれとは大きく異なる。冷戦後において、国際貢献という言説は、自衛隊の海外活動拡大を国内外で正当化する機能を担ってきた。国際政治には理想主義的な言説も必要である。

 しかし、国家安全保障では、やはり現実主義的な観点を基本とすべきである。なぜならば、国際政治の実態は、道義的な義務感よりも国益に基づく利害計算の方が幅を利かせているからである。安全保障や経済秩序といった国際公共財は、歴史上、英国や米国など国力に秀でた覇権国やその同盟国が自国の国益に基づき提供してきたものである。通常、理想主義的な集団安全保障の数少ない典型例とされる朝鮮戦争でさえ、A.ウォルファーズが正しく指摘したとおり、実情は、米国の安全保障上の利益に基づく、現実主義的な集団防衛の行動であった。

 米国は、同盟国である日本に対して、自国の国益に基づく政策判断をしたうえでそれに見合ったリスクをとってもらいたいと考えている。決して、国際社会の一員としての義務のために国益を犠牲にすることを求めているのではない。冷戦終結の直後にあった湾岸戦争において、日本が米国から激しく非難されたのは、国内で消費する石油の大半を中東からの輸入に依存しているという日本の国益に直結する事態にもかかわらずリスクをとろうとしなかった、独立国としての自覚を欠いた他国任せの姿勢であった。

 今後拡大していくであろう自衛隊の海外派遣については、国益擁護の観点を一層強化すべきである。実体のない国際社会からの期待に応えるためにではなく、より切実な自国の利益のために自発的に行動すること、国益に深刻な影響がある場合はリスクをとることを厭わないことが必要である。反対に、自国の国益に反することについては、Noと言うことを躊躇ってはならない。安全保障法制の整備により法的制約が弱まっていく中、より自立した現実主義的な政策判断が日本には求められている。

RIPS' Eye No.193

執筆者略歴

みやおか・いさお 1990年慶應義塾大学法学部卒、外務省入省(1995年退官)。1999年英オックスフォード大学大学院社会科学研究科政治学専攻博士課程修了(D.Phil.取得)。大阪外国語大学助教授、大阪大学准教授、慶應義塾大学准教授などを経て、2012年4月から現職。専門分野は、国際政治理論、安全保障研究、日米関係。

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