イスラム国-分裂という最悪シナリオを見すえて

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宮坂 直史 (防衛大学校 国際関係学科 教授)

 テロ組織は分裂する。分裂すると、より過激になる。― テロリストたちを観察していると古今東西、これが鉄則のように思えてならない。武力こそが解決と思っている連中が、方針や戦術のちょっとした違いでよく内輪もめするから、分裂は茶飯事である。そして分裂されると、組織が一枚岩のままでいられるよりも、はるかに制御し難く、予想不可の脅威をもたらす。分裂して生まれた少数派は名刺代わりに大きなテロを起こす。例えば日本人も多数犠牲になった2013年1月のアルジェリア・イナメナス事件。あれは、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」から別れて間もない連中が起こしたものだった。

 それでは、いま世界の耳目を集めているイスラム国も分裂するのだろうか。イラク政府の統治能力欠如とシリアの内戦に乗じてあれよという間に支配地域を拡大した。実務的な行政機構も整えつつある。「外国人戦闘員」はイスラム国を魅力的に思うからこそ参集する。なにしろ、かつて西欧列強が引いた国境線を無効とし、90年間途絶えていたカリフ制国家の復活を宣言した国である。給料をもらいながら、不信心者や異教徒と戦い、新しい国造りに参加できる。征服地では略奪し、結婚にもこまらなそうに思える。誇りと私欲が満たせる場所など、そうはない。世界の過激派から支持も集まり、日の出の勢いで分裂どころか本当の「国」に近づいているようにも映る。

 だが、イスラム国は、源流となるアルカイダ系や、フセイン時代のバース党員など諸勢力が短期間に合流した寄りあい所帯である。何よりも、多国籍軍に空爆され、複数の敵との地上戦も余儀なくされている。支援してくれる主要国もなく、国際包囲網がかけられている。こういう苦境にあって、国造りを急ぐのか(仮に実務派とする)、空爆参加国への報復テロに重点を移すのか(仮に武闘派)、一体誰との戦いに重点を置くべきか、つまりアサド政権かイラク軍かクルド人勢力か、などを巡って内部対立があってもおかしくない。また、今は元祖アルカイダや、シリアのアルカイダ系組織であるヌスラ戦線と対立しているが、このままでよいのか。連携相手をどこに求めていくのかも死活的に重要であろう。

 彼らは、イスラム世界の最高権威者であるカリフを勝手に設けた。イスラム世界から無視、反目されるだけでなく、その地位に就いたバグダティに何かあったときに後継者がすんなり決まるものだろうか。世界中から集まった戦闘員の中にもイスラム国に幻滅を抱き、脱走を図った者も少なくないと聞く。無理のたたった勢力拡張は、帝国のみならずテロ組織でもオーバーストレッチを起こしかねない。イスラム国は「国」に近づくよりも、短期的には分裂する可能性のほうが高いと思う。実務派と武闘派の対立など、さまざまな分裂シナリオを検討しておくにこしたことはない。なぜなら、分裂は今よりもテロを世界に拡散、激化させ、対処しにくく放置もできない、最悪状況さえ現出しかねないからだ。

 イスラム国が「国」に近づいたほうが、まだ制御しやすい。中世的で異形な国であっても、姿・形が可視的であれば制裁や封じ込めの方策がとれないわけではない。しかし分裂してしまえば、互いに我こそが真のイスラム国だと自称し、生き残りのためにも世界の過激派との同盟関係や連携を強化させ、存在感を示すためにイラク・シリア以外の国でも波状的なテロ攻撃を仕掛けてくる恐れがある。外国人戦闘員も、テロの技術を磨く実戦訓練と交流の場としてイラクに集い、母国にテロを逆輸入する傾向が今よりも強まるであろう。そして現在の対イスラム国包囲網は崩れ、対テロの共同歩調が乱れるかもしれない。

 国際社会は、カオスを回避するためにもイラク軍と治安機関を継続して強化しなければならないが、単に武器供与や訓練だけでなく、汚職や不正を根絶させる。同時に、イスラム国の分派、後継グループと連携しそうな組織を抱えるナイジェリア、イエメン、ソマリア、パキスタンなどで国境警備や出入国管理の強化に役立つ手法や機器類の支援と、人の移動に関する情報収集によって、テロリストの移動ルートを一つ一つ潰していく手法をとらなければならない。

 我が国も国連安保理決議に従ってテロリスト予備軍の渡航を規制する責務があるわけだが、そのための現状ツールは心もとない。昨年、渡航を計画していた北大生らの家宅捜索には刑法93条の「私戦予備および陰謀」を適用したが、これは海外テロ組織に参加することを防止する目的で規定されたものではない。欧米各国に比べて渡航事案が少ない今のうちに、新たな法整備が検討されるべきであろう。

 テロリストたちの世界地図は急変する。最悪シナリオを想定して臨機応変に対応できるように準備しておかねばならない。

RIPS' Eye No.189

執筆者略歴

みやさか・なおふみ 1963年生まれ。慶応義塾大学法学部卒、早稲田大学大学院博士課程中退、専修大学法学部専任講師等を経て、1999年防衛大学校助教授。2008年より同校教授。専攻は国際政治。研究対象は国際テロリズムとテロ対策。平和・安全保障研究所安全保障研究奨学プログラム第8期生(1996年-98年)。

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