自衛隊機外国不時着時の国際法的対応の必要性-米EP3事件を参考に-

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真山 全 (大阪大学大学院 国際公共政策研究科 教授)

1.EP3事件
 2001年に中国排他的経済水域(EEZ)で米EP3電波情報収集機が中国戦闘機J8の接近を受けた。領空外では飛行の自由があり、外国機に接近する自由も当然あるが、相手機にも同様に飛行の自由があるから飛行の妨害はできない。本件でも接近自体は違法ではないとしても過度の接近で接触してJ8は墜落し、EP3は海南島に緊急着陸した。
 かかる状況での領域国による進入(侵入)軍用機立入分解調査は、軍用機所属国同意がなくとも国際法上許容されるであろうか。機体所属国は、調査を拒み、機体と搭乗員の即時返還を要求できようか。

2.外国軍用機進入の法的評価
 外国軍用機の無許可進入は少なくない。日本でも1976年に亡命のためソ連MIG25が函館に降り、航空自衛隊は、ソ連の抗議にもかかわらずこれを分解調査した(百里基地ハンガー銘板がこれを記念す)。逆に自衛隊機が何かの事情で外国に着陸してしまうこともあろう(自衛隊機乗逃企図はT33A(松島、1962年)とLM1(宇都宮、1973年)であったが亡命成功例はない)。こうした事態では領域国の機体所属国同意を得ない調査の妥当性を巡る紛争が生じる。
 この問題の回答は、領空進入が許容されていたかで決まり、許容される進入なら領域国による所属国同意のない調査は、武力紛争時を例外として他は違法と考えられる。

3.武力紛争時の敵国軍用機
 武力紛争で自衛権により戦うなら、その必要性と均衡性の範囲で相手国領空無断進入は構わない。領空侵犯を平時の国際法は違法とするが、自衛権の規則は特別法としてこれに優位するからである。他方、領域国は進入機を撃墜又は鹵獲でき、機体は戦利品として所有権が領域国に移転する。領空無断進入は合法ながら、捕まったら相手の物になるので調査拒否もできない。

4.平時の外国軍用機進入と違法性阻却事由
 それでは武力紛争時以外ではどうか。航空自衛隊電子戦機YS11Eが中国に着陸したとすると、領空進入の理由の検討が先決的問題である。平時の無許可進入は違法でYS11E所属国日本の国家責任を発生させるから、その回避には国家責任法上の違法性阻却事由、すなわち違法行為の成立を妨げる効果を持つ特段の事情が欲しい。
 同意も阻却事由ながらそれがないとすると、不可抗力(force majeure)や遭難(distress)という事由が考えられる。不可抗力は、渡鳥のように台風の目から脱出できず他国領空に運ばれたといった抗し難い外的事情による場合をいう。遭難は、領空侵犯という違法行為回避は可能ながら、そうすると墜落して生命が危ういので、やむなく自らの意思で最寄外国領空に入り不時着して助かるというようなことである。YS11Eにもそうした事情があればよい。但し、違法性阻却事由があっても、着陸料等の合法的着陸でも必要な費用を巡る紛争は発生し得よう。
 EP3でも遭難が争点となった。中国機の過失で損傷したEP3が海南島に降りたので遭難が成立するとの主張が米に可能であるが、中国からは、自招危難ならば遭難を援用できないといえる。どちらの機に回避義務があったかについてシカゴ条約等から判断するため事実認定の要が従ってあるが、大抵は水掛論に終わる。結局、米も法的責任を認めたか否か明白ではない遺憾の意表明の後、機体搭乗員の返還を得たことは日本にも参考になる。

5.領空外での捕捉
外国軍用機による捕捉を次に検討する。YS11Eが中国領空外で中国戦闘機に捕捉されたとすると、捕捉の合法性次第で連行と機体調査の合法性も概ね決まる。YS11E捕捉が合法なのは、亡命のため誘導を中国機に要請したか、日中両機間の単発的暴力行為が武力紛争と観念されそこで捕まるか、又は海賊航空機である他は考え難い。中国の防空識別圏やEEZにYS11Eがあることのみを理由とする捕捉はできない。捕捉が違法なら着陸後の調査を拒否できる。

6.外国軍用機の管轄権免除
 軍用機進入が違法なら所属国に責任が生じるが、機体調査も領空侵犯機であるということで自動的に可能かの論点がある。軍艦は違法な進入でも免除があるが軍用機はそれと全く同じでは必ずしもなさそうである。日本もMIG25を違法行為を理由に調査した(但し、ソ連の所有権は否定せず機体は返還した)。免除が否定的に解されれば、自衛隊機も違法な進入なら領域国に分解されても抗議できない。

7.Lawfare対応
 いかなる状況であれ自衛隊機が捕まれば、法的見解を直ちに示さなければならない。後に主張を変えると説得的ではなくなるので、短時間で正しい主張を組み立てる必要がある。航空機運用と国際法双方に精通した者しかこれはなしえず、外務省による交渉もこれを基礎としよう。自衛隊にとってlawfare(法戦、法の解釈適用をめぐる「戦い」)も電子戦同様に重要である。

RIPS' Eye No.185

執筆者略歴

まやま・あきら 東京生まれ、京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学、甲南大学助教授、防衛大学校教授、コロンビア大学客員研究員を経て2008年から大阪大学大学院教授。この間、国際刑事裁判所設立外交会議日本政府代表団法律顧問、ジュネーヴ諸条約第1追加議定書国際人道事実調査委員会委員等を勤める。

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