日韓安全保障協力の展望

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道下 徳成 (政策研究大学院大学 教授 / 安全保障・国際問題プログラム ディレクター)

 歴史や領土問題をきっかけに日韓関係が悪化しており、いまだに改善の見通しが立たない。そうしたなかで、日本が中国に対する抑止力強化の努力を進める一方、韓国は中国との関係強化に向かっており、日韓関係は一層希薄化しつつあるように見える。

 日韓関係悪化の背景については4つの大きな理由がある。2つは短期的な理由、もう2つは長期的な理由である。第1の理由は、麻生副総理が、朴槿恵大統領の就任式参加後、朴大統領と側近らとの会合の場で、「歴史の解釈にいろいろな見方があるのは当然である」と発言した。韓国側は、これを「日本は韓国との関係を改善する気はない」とのメッセージとして受け取ったとみられる。

 第2の理由は、朴槿恵大統領が朴正煕元大統領の娘であるという点にある。朴元大統領は日本の陸軍士官学校に留学し、満洲国軍に将校として勤務し、創氏改名で日本名を持っていた。また、1965年、朴元大統領は韓国国内の反対を押し切って日本との国交正常化を進めた。このため、朴槿恵大統領は親日派のレッテルを張られやすい。従って、「親日ではない」というのを相当強く出しておかないとよくないので、日本に対して厳しい立場をとっているという面がある。

 第3の理由は、韓国が「ジャパン・ディスカウント」で対日競争力を強化しようとしている点である。過去と異なり、韓国は世界市場で日本の競争相手として対等なプレーヤーになった。日本製品のブランドイメージ等を落とすことによって、相対的に韓国の商品が優位に立てる。

 第4の理由は、韓国が米韓関係と中韓関係を軸として対外政策を展開していることである。単純化すると、現在の韓国の外交は「米国および中国との関係さえしっかりしていれば、あとはすべてうまく行く」という前提に立っている。このため、日本の重要性が昔に比べて落ちてきている。ちなみに、米韓関係と中韓関係を軸とする考え方は、盧武鉉政権のときに出ていた「北東アジアバランサー論」に似ている。これらは、いずれも「等距離外交(equidistance policy)」で、大国に囲まれた位置にある国がとる戦略としては自然なものである。

 次に、日本のアジア太平洋戦略における韓国の位置づけである。日本の持つ最も重要な戦略目標は、中国が台頭してくる中で、いかに地域のバランス・オブ・パワー(勢力均衡)を維持するかということである。そのため、第1に日本自身が防衛力を強化する、第2にガイドラインの見直しを含めて、日米協力を強化し、それを対中シフトに変えていくという方向で進んでいる。

 しかし、それでも限界がある。国防費の増加率などのトレンドをみると、どんなに日米が頑張っても、中国と競争できない。このため、日本は、地域におけるパートナーを増やしていく方向を目指している。具体的には、韓国、オーストラリア、東南アジア諸国、インドを戦略的なパートナーにして、日米をリーダーとする共同防衛体制をつくるという方向である。

 この中で、韓国の国防費は2013年の時点で世界第10位の339億ドルであり、しかも過去10年間に42%も伸びている。韓国は経済面でも軍事面でも、地域でかなりのウェイトを占める重要な国になっている。しかも、韓国は、単に北朝鮮に対応する以上の能力をもちつつある。イージス艦やP-3C哨戒機なども保有しており、かなり近代化されてきている。

 従って、韓国は日本の戦略パートナーとして非常に魅力的な国なのだが、現在、韓国の軍事能力と外交政策にはギャップが出てきている。具体的には、韓国は本格的な海空軍を保有しつつあり、日米と協力して中国の台頭に対応することも可能なのであるが、外交戦略としては、むしろ中国との関係を緊密化させる方向にある。そのうえ、日韓関係が悪化している。

 しかし、日本における印象とは異なり、中韓関係も実際は順風満帆というわけではない。近年、韓国の排他的経済水域内で不法操業を行う中国漁船が増えており、ここ数年間の漁業紛争で韓国の海洋警察官2人が死亡し、中国の漁民も1人死亡している。

 2012年に韓国で行われた世論調査によると、「現在、韓国にとって安全保障上の脅威である国はどこか」という質問に対する回答は、北朝鮮37.8%、日本27.8%、中国18.3%であった。しかし、「10年後、韓国の安全保障に脅威となる国はどこか」という質問に対する回答は、1位が中国で40.9%、2位が北朝鮮で21%。3位が日本で20%であった。つまり、韓国人はかなり現実的に地域情勢を認識しており、中国との関係を重視しつつも、対中ヘッジの必要性も感じているといえる。

 最後に日韓安全保障協力の展望であるが、日韓関係の現状を考えれば、短期的には進展は見込めないといえるであろう。従って、無理矢理、協力を進めようとするのではなく、限界があるということを認識しつつ、可能な範囲内で実務的な協力を進めるのが良いであろう。具体的には、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)や物品役務相互提供協定(ACSA)などの実務レベルでの協力関係を進展させることが重要だ。現状では、これさえもできないという状態だが、これは努力が必要である。

 そして同時に、長期的な協力進展の可能性を踏まえて、韓国軍が地域の安全保障でより大きい役割を果たすようになることを支持し、米韓同盟の発展にも側面から協力すべきである。韓国軍と米軍が相互運用性を確保していれば、必要なときに日米同盟と米韓同盟を共同運用することは比較的容易なはずである。

RIPS' Eye No.182

執筆者略歴

みちした・なるしげ 1965年岡山県生まれ。米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)博士課程修了(国際関係学博士)。専門は日本の防衛・外交政策、朝鮮半島の安全保障。防衛省防衛研究所、内閣官房などを経て現職。

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