日米同盟強化のために憲法九条を護れ

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加藤 朗 (桜美林大学 教授 / 平和・安全保障研究所 研究委員)

 安倍新政権の対米戦略の基本は、自由民主主義の価値観に基づく日米同盟の強化はもちろん、それ以上に重要なのが、日本を敵視するかつての米中の「反ファシズム」連合の復活を阻止することである。それには憲法九条を護ることが何よりも肝要だ。

 米国には日米同盟の強化を望むアーミテージ、ナイ、グリーンら親日派がいる一方、日米同盟は日本軍国主義の復活を抑える瓶の蓋と言ってはばからないキッシンジャーやケリー次期国務長官ら親中派がいる。冷戦時代とは様変わりで現在のアメリカ政界では、日本の衰退、中国の興隆に比例して、親日派の影響力が相対的に衰えていることは疑いもない。

 日米同盟は、そもそも対ソ連、対中国の反共軍事同盟であった。今やソ連も中国も共産主義を放棄し、日米同盟は形骸化する一方である。いくら96年にアジア・太平洋の平和と安定のための日米同盟と安保を再定義してはみたものの、十数年経った現在、米国にとってアジア・太平洋の安定のために最も重要な二国間関係は米中関係になってしまった。

 親中派、対日無関心派にとって米国の戦略は日米同盟よりも、キッシンジャーの太平洋共同体構想のような米中によるアジア・太平洋の共同覇権体制の構築か、あるいはクリストファー・レインらの主張するオフショア・バランシング戦略(要するにモンロー主義、孤立主義の現代版である)が望ましい。
彼らに対抗するために、日米同盟の再・再定義をして、日米同盟の重要さを改めて米国や国際社会に知らしめることが必要だ。対テロ戦争やトモダチ作戦のような災害支援等非伝統的な安全保障にその意義を見出そうとする向きもあるが、それは伝統的な軍事安全保障である日米同盟の補完どころか否定に他ならない。対中戦略を考える限り、日米同盟を再・再定義するとすれば、それは自由民主主義の価値観に基づく日米同盟である。

 中国の最大の弱点は、思想、言論、行動の自由を制限する共産党の一党独裁国家だということである。この点で米国と同じ価値観を持つ日本は対米関係で中国よりも優位に立つことができる。米国にとって戦略的、経済的に中国がいくら重要であっても、建国の理念を否定してまで目先の利益に動かされる米国人は少ないと信じたい。

 中国は今「三戦戦略」に基づいて対米反日宣伝を強化しているのか、米国では「反ファシズム」連合の復活と思しき動きが目につく。米国の中国系メディアは、日本の尖閣領有を戦後の「反ファシズム」体制を否定し戦前のファシズムに回帰する企みと、盛んに日本を非難している。また米国のメディアも昨年後半から日本の右傾化を批判的に取り上げている。さらに慰安婦問題では1月29日にニューヨーク州議会が、旧日本軍の「慰安婦」問題を記憶にとどめる、とする決議を全会一致で採択、連邦議会でも07年に続き第二慰安婦決議の採択に向けた動きが進んでいる。

 そこで安倍政権は、価値同盟としての日米同盟強化の視点から、オバマ政権が河野談話や村山談話の見直しで安倍政権と政治的距離を置かざるを得なくなる事態は避けるべきである。安倍首相は自らの政治信条を一時棚上げしてでも、河野談話や村山談話の見直しを封印し、中国に軍国主義復活との宣伝材料を与えかねない憲法九条改正、「国防軍」も先送りすべきである。その一方で防衛費の増額や集団的自衛権の政府解釈の見直しで防衛力の強化を図るべきである。日本の防衛力強化には、国防費の大幅削減を迫られている現状を考えれば親中派も表立って反対できないだろうし、ましてや一般の米国民は慰安婦問題ほどの関心は示さないだろう。

 日米同盟を強化し米中「反ファシズム」連合の復活を阻止するために、中国が民主化するまで安倍首相は悲願の憲法九条改正を待てばよい。いや、中国が民主化してしまえば、それこそカントの民主主義による平和の時代が訪れ、九条改正の必要はなくなるかもしれない。憲法九条は今やソフトパワーとして日本の対中戦略の切り札になっていることを安倍首相は肝に銘ずべきである。

RIPS' Eye No.162

執筆者略歴

かとう・あきら 1951年鳥取生まれ。1981年早稲田大学大学院政治研究科国際政治修士課程修了。同年防衛庁防衛研究所。1996年桜美林大学国際学部。現在同学部教授。国際政治(紛争研究)専攻。

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