国産戦闘機開発に見る韓国の心意気に学ぶ

徳田 八郎衛(元 防衛大学校 教授)

  「韓国製品の殆どが、外国、主に日本から盗み取った技術で製造されている」、「技術では日本製品の方がはるかに上だ」。このようなコメントを何年も聞かされている間に、日本得意の液晶も携帯電話も韓国にお株を奪われてしまった。兵器の国産に挑む韓国の熱意を見ると、いつの日か防衛装備についても、同じことが起るのではないかと心配である。米国やドイツからの技術移転によって戦車やAIP(非大気依存)潜水艦の国産に成功した韓国防衛産業の次の夢は、現有F-16を改良した国産戦闘機(KF-X)の開発である。過去の航空機開発の実績から見ると、一見、冒険のようでもあるが、関係者を「開発せざるを得ない」と決意させたのは、日本を含む9か国が採用を決定し、デンマークと韓国が採用を検討していた「統合打撃戦闘機」S-35開発の遅れであった。航空専門誌『アビエーション・ウィーク」は今秋、その根本的な原因が技術的な問題でも、開発経費や取得経費の大幅増加という経済的な問題でもなく、「米国防省と主契約者ロッキード・マーティン社とのぎくしゃくした関係」にあると嘆き、米空軍のF-35計画室長が公開の席で同社の不手際を難詰したことを報じている。その冷え切った関係も、元はといえば、防衛費削減の嵐がもたらした経費分担問題にあるが、30年も運用してきた現有機が耐用年数を超えている国々は、配備遅延で気が気ではない。

 新鋭機への更新を一番急ぐのは、もちろん米国であるが、IOC(初期作戦能力)開始も当初の見込みより大幅に遅れて海空軍機で2017年、海兵隊機で2018年となった。しかし今の状況が続けば、さらに2年は遅れ、他の国のIOCは、もっと後になると案じられている。その結果、各国の対応も変化してきた。米国と緊密な関係を維持してきた英国も、F-35計画への正式参加は2015年まで延期すると2012年2月に宣言し、オーストラリアも調達を再考することになった。検討中だったデンマークは、現有F-16の延命を図った上、2016年に態度を決めるという。では、これら諸国と違って中国空軍の近代化に神経を尖らさざるを得ない韓国は、どう対応するのだろうか。

 韓国の国防科学研究所(ADD)は、KF-Xの国産開発に必死である。目指すのは、F-35 ほどのレベルではないが 現有のF-16よりは高性能で、レーダーに映りにくい形状の戦闘機だ。だが議会も財政当局も、「国産機など役に立たないからF-35かユーロファイターを買ってはどうか?」と開発に冷たい。「それでは、いつになっても国産技術は育たないし、輸出もできない」というのが国産推進側の言い分で、これは日本の防衛技術関係者にも通じる心境であろう。2012年中に開発コンセプトを定めて翌年から開発を始め、2013-14年にフィージビリティ研究を行うというロードマップだったが、中期計画で約束されていた予算は無視され、来年度の開発予算は45億ウォン(400万ドル)しか与えられなかった。この程度の額では調査費に過ぎないであろう。そして以前はADDの隷下にあったが、今は同格の国防部機関となった韓国国防研究院(KIDA)からも、部内の報告書で国産戦闘機の技術的可能性に疑問を呈されている。

 しかし隣国の中国は、ステルス戦闘機「殲」J-31を10月31日、初飛行に成功させ、米国に続き世界で2番目に2種類の第5世代ステルス戦闘機(J-20とJ-31)を試験飛行させた国となった。韓国の焦りは十分に理解できるし、日本にとっても他人ごとではない。とはいえ韓国の航空機開発実績といえば、まだ高等練習機A-50だけであり、これを昨年インドネシアへ輸出したばかりである。日本が1970年代に高等練習機T-2と、それを改造した支援戦闘機FS-T-2改(F-1)を開発したのと同程度の状況といえるから、F-16以上のレベルの、しかもステルス機開発を狙うのは高望みだ、と議会や財政当局が見るのは常識的な見解であろう。己の実力を知る韓国防衛事業庁(DAPA)も、KF-X開発のためボーイング、ロッキード・マーティン、EADS等の海外防衛企業に51項目の技術提供を求めている。しかしエンジンや通常の構造材料だけでなく、ステルス機に使われる最高国家機密の構造材料や最新アビオニクス等が、高額な代価を支払うだけで移転されるとは思えない。民需生産でも武器生産でも、欧米諸国に比較すると低コスト、しかし質の高い労働力を活用して組立産業の本領を発揮してきた韓国であるが、部品、構成品を日本等からの輸入品に依存してきたという弱点は、ステルス機の研究試作にも障害となって立ちはだかる。

 F-35調達を決めながらも「心神」先進技術実証機(ATD-X)の研究試作を進め、「次の次」を狙う日本から見ると、一足飛びに米国や中国のステルス機に近づこうとする韓国技術陣のやり方は、拙速かもしれない。だがこれは、長射程ミサイル開発と同様に、反撃力、ひいては抑止力となる兵器の開発や取得を、いつまでも米国に管理されていいのか、という主張でもある。日本も、この姿勢を少しは見習っても良いのではなかろうか。それは対米協調と矛盾するものではない。

RIPS' Eye No.158

執筆者略歴

とくだ・はちろうえ 京都大学理学部地球物理学科卒業、同大学院理学研究科博士課程を経て防衛省技術研究本部、陸上幕僚監部、統合幕僚監部、防衛大学校等で研究開発、技術調査、技術教育に当る。元1等陸佐。主著に『間に合わなかった兵器』『間に合った兵器』(いずれも東洋経済新報社)、共著に『中国をめぐる安全保障』(ミネルヴァ書房)、『大国ロシアになぜ勝った』(芙蓉書房出版)等多数。

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