宇宙の安全保障利用と自衛隊の役割

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青木 節子(慶應義塾大学 総合政策学部 教授)

  日本では約40年間に亘り、宇宙の平和利用とは宇宙を「非軍事」目的に限定して用いることという立場が取られた。そのため、自衛隊の宇宙利用は「その利用が一般化している衛星及びそれと同様の機能を有する衛星」(1985年、政府統一見解)に限られていた。したがって、北朝鮮のテポドン発射に伴い導入が決定された「情報収集衛星」(IGS)の解像度も、市場で取引されるリモートセンシング衛星画像のものと同等かそれ以下でなければならなかった。そのような状況が一変したのは、2008年の宇宙基本法によってである。同法は、自衛権の範囲内の防衛利用を宇宙の平和利用とする世界標準の解釈を取るからである(第2条)。これを受けた2012年の独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)法改正により、JAXAも防衛目的の研究開発が可能となった。日本は「普通の国」に近づいている。

 従来、米ソ(ロ)、欧州、中国等は自国の地上での軍事力向上のため、偵察・監視、ミサイルの精度向上、弾道ミサイル発射探知をはじめとする多様な目的で積極的に軍事衛星を運用している。近年の傾向は、商用衛星への依存や小型衛星群の利用が一貫して進んでいること、また、自国衛星への攻撃回避操作能力の向上や通信網の強靱性向上が喫緊の課題とされていることである。特に軍事通信衛星網はサイバー攻撃に対して脆弱な部分であり、宇宙、サイバーという新しい作戦領域の防護という観点からも防護技術の開発と運用が重視されている。そのような状況下、自衛隊はどのような宇宙の防衛利用を行うべきであろうか。非常に厳しい財政状況を念頭におきつつ、以下5点を提言したい。

 第1に、IGS4機(光学、レーダ各2機)体制はすでに2009年の宇宙基本計画で承認されていることに鑑みて、運用中の同衛星を徹底活用し、かつ、次号機以降を防衛省が必要とする機能を最大限備えたものとすることである。IGSは防衛省の衛星ではなく政府の衛星ではあるが、日本が保有する唯一の機微情報保全の可能な衛星である。防衛省の必要性を最大限反映した利用を行うべく、併せて、データ解析能力や価値付加情報の作成能力の向上も急がなければならない。

 第2に、今後3-4年間は、世界的な傾向でもある汎用利用を拡大し、その間に①自衛隊が保有すべき衛星等宇宙資産の同定、②それらの国産(官民協力の枠組も含めて)、共同開発、輸入可能性を検討、③開発から運用までの行程表の決定を行い、第3期宇宙基本計画(2018年度以降)に反映させることである。

 第3に南西諸島防衛に資する宇宙利用体制を早急に構築することである。JAXAの地球観測衛星や内閣府の運用する準天頂衛星はもちろん、民間の超小型衛星群(今後打上げ)の活用により、潜水艦探知、艦船や漁船の航行監視、緊急時の冗長性ある通信・測位情報の提供等も行いうる態勢整備が必要である。関連して第4に、南西諸島域にある自衛隊の飛行場を利用する衛星の空中発射の研究開発を進めることである。緊急時の小型衛星打上げを可能としなければならない。

 そして第5に官民協力の汎用利用体制で、光学・レーダ望遠鏡双方の能力向上と解析・分析強化を図って日本の宇宙状況監視(SSA)能力を格段に向上させることである。2030年代までには、米国の宇宙監視ネットワークのうち脆弱なユーラシア東部のSSA網を整備することにより、独自に、また、同盟深化により日本の安全保障向上を図らなくてはならない。

 すべて現実的で日本の宇宙能力からは控えめな提案である。意思が試されている。

RIPS' Eye No.157

執筆者略歴

あおき・せつこ 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。カナダ、マッギル大学法学博士号(Doctor of Civil Law: D.C.L)取得、立教大学法学部助手、防衛大学校社会科学教室専任講師、防衛大学校社会科学教室助教授、慶應義塾大学総合政策学部助教授を経て現職。安全保障研究奨学プログラム第7期生。

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