独自の反撃力を求める韓国

徳田 八郎衛(元 防衛大学校 教授)

密かに開発した長射程巡航ミサイル
 この4月、北朝鮮の衛星打上げ失敗は、いわば予想通り(?)であったが、世界の朝鮮半島ウオッチャーをもっと驚かせたのは、それに続く韓国の長射程ミサイルの配備発表であった。以前から米国の庇護に安住せず、北に対する独自の抑止力、反撃力の保持を試みてきた韓国であったが、米国から「朝鮮半島の戦略的安定が崩れる」という理由で半世紀も制限されてきた。それを敢えて保持するという挑戦の表明である。衛星打上げ失敗から6日後の4月19日、「北朝鮮の如何なる場所の目標も」攻撃可能な新型国産巡航ミサイルの開発と配備を國防部政策企劃官が発表し、その「世界一の命中精度と威力」を誇った。併せて長く秘匿されていた巡航ミサイルの開発が明らかにされたのだ。

 これを報じる韓国各紙は、2010~2011年に配備可能となった(IOC)、射程500kmの玄武3型Aと射程1000kmの同3型Bに続いて、射程1500kmの3型Cが陸軍に配備されたと見ている。同型の弾頭重量が450kg、命中精度(CEP)が2-5mであったので3型Cも同様と推測され、「射程1500kmでトマホーク以上の精度」という記事さえ登場する。秘匿された開発とはいいながら、性能はすべて当局のリークである。またメディアからの電話取材に応じて國防部報道官も、射程300kmの弾道ミサイルの配備を確認した。これは2000年代後半に配備可能となった玄武2型の最新版2型Bと見られる。

 1975年頃から韓国はSAMのナイキをSSMに改造する実験に没頭し玄武1型と名付けたが、射程は180kmが精一杯であった。これ幸いと米国は1979年、これを韓国が持つSSMの射程限度として押しつけたが、韓国は粘り強く交渉を続け、ついに2001年ミサイル技術管理レジーム(MTCR)に加盟する代わりにMTCRが許容する弾道ミサイル射程300km、弾頭重量500kgを韓国にも認めるよう米国に同意させた。MTCRに巡航ミサイルの射程制限はないが、米韓協定で500kmでの抑制を韓国は約している。それを公然と破棄したのであった。

しかし国産ミサイルを信頼できるのか?
 李大統領は4月28日、この巡航・弾道両ミサイルを5年間に500-600基調達する21億4000万ドルの予算を承認した。米国は早速不快感を示し、ミシェル・フロノイ前国防次官に「韓国単独でなく同盟として対処すればよい」と語らせている。北との核疑惑交渉で常に蚊帳の外へ置かれてきた韓国には「その言は聞き飽きた」であろう。

 しかし悲しいかな、韓国には国産ミサイルの開発実績がない。最初に習得すべき対戦車ミサイルも未だに米仏露の国際見本市だし、日本の短SAM(81式SAM)に相当するKSAM「天馬」も98年に開発を終えて国防科学研究所のサイトでは華々しく発射されるが配備は進まず、95年に開発を開始した、ロシア製「イグラ」のデッドコピーである携帯SAM「神弓」も未だに配備に至らない。改良ホークの後継を90年代に自力開発した日本は、03式中SAMとして制式化したが、ロシアのS-300(NATOコードSA-10)の後継であるS-400の主要技術をデッドコピーすることにより容易く2010年には開発を終了できると韓国メディアが楽観してきた韓国版中SAMのKM-SAMも、音沙汰なしである。

 歴史的にも弾道ミサイルの開発は、高い命中精度さえ問われなければ比較的簡単に進行するから2型Bに大きな問題はないとして、地形映像照合誘導でホーミングする3型Cが「トマホーク以上の精度」を容易に得られるのか、そもそも無事に1500kmを飛行できるのか、甚だ疑問である。

RIPS' Eye No.153

執筆者略歴

とくだ・はちろうえ 京都大学理学部地球物理学科卒業、同大学院理学研究科博士課程を経て防衛省技術研究本部、陸上幕僚監部、統合幕僚監部、防衛大学校等で研究開発、技術調査、技術教育に当る。元1等陸佐。主著に『間に合わなかった兵器』『間に合った兵器』(いずれも東洋経済新報社)、共著に『中国をめぐる安全保障』(ミネルヴァ書房)、『大国ロシアになぜ勝った』(芙蓉書房出版)等多数。

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