3.11大震災の教訓と残された課題-インタビュー調査からみえてきたもの

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和田 修一(平成国際大学 法学部 教授)

 3.11大震災から1年が過ぎようとしている。被災地では本格復興に向けた課題が依然山積しているが、危機管理の面ではいくつかの問題が浮き彫りにされ。震災以降、被災地には12回足を運び、宮城県庁や仙台市役所、自衛隊、海岸沿いの被災地などで度々インタビュー調査を行い、また在日米軍司令部でも3度話を聞いた。それらに基づき、仙台市を中心とした地震直後の対応についての教訓と課題を考えてみたい。

【避難が遅れた理由】
 「三陸沖大規模地震の発生確率は99.9%」と従来から言われ、現地は1978年の宮城沖地震や2010年にはチリ地震津波も経験していた。仙台市蒲生地区で被災者に聞いて驚いたのは、1年前のチリ地震津波の経験がマイナスに働き、津波への対応・避難が遅れたということである。

 2010年2月にチリ地震発生直後、蒲生地区では最高レベルの津波避難警報が発令された。はるか太平洋を越えて津波はきたが、1メートルに満たず、堤防で十分防ぐことができた。これに対し、3.11大震災はマクニチュード9という桁外れの地震で、震源地から130キロしか離れていなかった。ところが、避難警報のレベルは1年前と同じで、津波は「チリ地震時と同じ程度」と多くの人が錯覚した。地震の後に片付けを始め、避難をしないまま津波に襲われた人も少なくない。経験に基づいて判断するのは無理もないが、それが思い込みにつながり、犠牲者の数をいっそう大きくしてしまった。

【危機対応マニュアルは役立ったか】
 危機管理の第一は、最悪の事態を想定し、事前に対応策を準備することである。その危機管理マニュアルも課題を残した。前提とした被害規模の見積もり自体が間違っており、“想定外”の事態が相次いだ。指定された避難所に逃げ込んで安心したのも束の間、その避難所が津波に襲われた例もいくつかあった。

もちろん、マニュアルがすべて役に立たなかった訳ではない。事前のマニュアルに基づき、仙台市は震災から3日目の月曜日の朝に、8つの瓦礫集積所をオープンさせた。またマニュアルをそのまま使うのではなく、その中身を熟知した担当者が、状況に即して判断を下し、素早い対応につなげた。マニュアルに固執するのではなく、それを超えた状況判断力が問われるのではないか。

【自衛隊と米軍の活躍と課題】
 震災でとりわけ目を見張ったのが自衛隊と米軍の活動である。初の“現場”での日米共同作戦であり、共同訓練とは違った、貴重な実践経験が蓄積された。共同訓練では2カ月かけて準備・調整されるコンピュータ回線が、地震発生直後にはうまくつながらなかったケースもある。

 マンパワーや装備・機材、輸送力を持ち、食料も宿泊も自前で準備できる自衛隊や米軍は、大震災という危機の中でその長所を遺憾なく発揮した。海沿いの被災地の道路は瓦礫で塞がれ、自衛隊の重機が道を切り開くまで、警察も消防もほとんど身動きがとれなかったという。

 被災地の自治体は自衛隊や米軍への依存を強め、宮城県での米軍トモダチ作戦は5月1日まで、自衛隊の災害派遣活動は8月1日まで続いた。自衛隊や米軍の献身的な活動には、心から感謝したい。自衛隊の災害派遣は自衛隊法に明記された任務だが、米軍のトモダチ作戦はあくまで緊急人道支援である。震災の度に過剰な期待を抱かないように、米軍や自衛隊が災害復旧にどこまで加わるべきかについて検討しておく余地はある。

 震災後、仙台で水道は1日、電気は4日、ガスに至っては1カ月半も止まった。地下鉄、JR、空港もしばらく使えなかった。今回の大震災は仙台にとって“400年に1度”とも言われ、同じ規模の大地震が再び仙台を襲うまでには時間があるのかもしれない。むしろ「次に心配なのは仙台よりも首都圏」という仙台市幹部の言葉を、肝に銘じておく必要がある

RIPS' Eye No.146

執筆者略歴

わだ・しゅういち 平成国際大学法学部教授。1955年、仙台市生まれ。早稲田大学大学院博士前期課程終了。関嘉彦参議院議員公設第一秘書、平和・安全保障研究所研究員、日本国際交流センター・プログラムオフィサーを経て現職。専門は国際政治、対外政策・安全保障論で、『米ソ首脳外交と冷戦の終結』(2010)をはじめ多数の著作がある。震災については他に、“Operation Tomodachi in Miyagi Prefecture: Success and Homework. ” CSIS Japan Chair Platform (December 2011)がある。

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