日米同盟の展望と日本の針路

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簑原 俊洋(神戸大学大学院 教授)

 内閣府は、昨年の12月に「外交に関する世論調査」を発表した。その結果、米国に対して「親しみを感じる」とする回答が82.0%にも上り、1978年の初調査以来、最も高い数字となった。他方、「親しみを感じない」は、過去最低の15.5%に留まったが、こうした統計が端的に示すのは、多くの国民にとって、米国は信頼できる身近なパートナーになっているということである。

 むろん、この度の世論調査は、「トモダチ作戦」も影響している。しかし、震災前の調査でも「親しみを感じる」は8割程度あったことを考えると、この度の米軍による救助活動が両国の絆を一時的に強化したという理解は間違っている。実際、戦後日本では、日米関係に匹敵する対外関係は存在せず、両国間の同盟は日本の安全保障の要として現在でも機能している。そして、それは核武装化した北朝鮮のみならず、軍備の拡張・近代化に邁進する中国に対しても有効な抑止力となっている。

 以上を踏まえ、本稿では21世紀における同盟の深化の過程を概観しつつ、日米同盟の展望について検討したい。

【21世紀における日米関係の深化】
 米国から見た新世紀とは、9・11世界同時多発テロとその延長線上にあった二つの戦争、中国の隆興、そしてリーマン・ショック等々、多くの重大事件によって決定付けられた時代であった。その間、米国を8年間率いたのがブッシュ(George H.W. Bush)大統領であった。この間の日本も、約5年半にわたって小泉純一郎が長期安定政権を担った。こうした激動の時代において、小泉首相は堅固な日米関係こそが日本の国益になると考え、強いリーダーシップを発揮して同盟の強化に努めた結果、所謂「日米黄金時代」の構築に成功した。しかし、この後に続いた自民党政権の安倍、福田、麻生の各首相たちは、そのような指導力を発揮することなく、いずれも短命政権に終わった。

 愛想をつかした国民は2009年秋の選挙で自民党を野党へと追いやり、本格的な政権交代を実現させた。だが、新しく与党となった民主党は、未熟さを露呈し、日米関係も多くの摩擦が生じるようになった。その一例に、鳩山由紀夫首相が挙げられよう。「日米対等」と称して、従来の両国関係に変更を迫り、その一環として米国と合意済みであった沖縄基地問題について県外移転を唐突に主張して米国を困惑させた。

 そして、こうした日米関係のズレは、中国による対日示威行動を招いた。ぎくしゃくした日米関係に乗じて、中国は艦隊を沖縄本島と宮古島の間に通過させ、日本に対する挑発行為に及んだ。リアリズムを欠いた鳩山が9ヶ月で政権を放り投げたのは幸いであったが、続く菅直人首相も2010年9月の尖閣列島沖合で発生した漁船衝突事件において、中国の熾烈な対日応酬を前にして屈服し、司法に介入してまで拘留中の船長を釈放するという行動にでた。

 だが、「災い転じて福となす」と言われるように、中国による強硬な態度は、却って日本国民に日米同盟の重要性を再認識させる結果を招いた。くわえて、昨年3月の東日本大震災と8月の菅首相の退陣は、良い意味で日米関係をリセットする契機ともなった。後を継いだ野田佳彦首相は、対米関係重視へ回帰する政策転換を行い、それに伴って日米関係も再度安定軌道に戻りつつある。

【日米同盟の展望】
 では、今後の日米同盟の展望はいかに?普通に考えれば、両国関係はさらに深化の過程を続けるであろう。その証左として、米国が国際政治の舞台においてかつてのような圧倒的なドミナンスを有していないことが挙げられる。とりわけ東アジアでは、海洋覇権を狙う中国が挑戦者として台頭するに伴い、米国のパワーも相対的に漸減している。そのため、米国がコストを抑制しつつ、自国の安全保障を担保するためには、日米同盟のさらなる強化は必須不可欠となる。つまり、中国の地政学的戦略目標が日米双方にとって相容れないものである現状において、日米同盟の深化は自明の理である。

 もっとも日米関係の展望が全て明るいわけではない。普天間基地の移設問題はまだ迷走したままであり、悠長に構える日本に対して米国が嫌気をさし、対日コミットメントを減らす可能性も十分想定できる。こうした好ましくないシナリオを現実化させないためにも、日本は外交をより能動的に展開し、日米同盟にもっと大きな付加価値を与える必要がある。

 そう遠くない将来、北東アジア地域の安全保障は日米同盟の枠組を超え、韓国などを加えたより多面的・多角的な同盟として語られることが多くなるであろう。とはいえ、日韓関係には未だ多くの問題が横たわっており、こうした多国間同盟が成熟するにはまだなお歳月を要す。ならば、日米関係の重要性は当面低下することはない。 最終的に日本の命運は、国家の進むべき針路をきちんと示し、それに向かって的確な舵取りができる強いトップ・リーダーが現れるか否かにかかっている。ほぼ一年ごとに首領が交代するポスト小泉政権の総理大臣メドレーが続くようであれば、転換期を迎える国際政治の舞台に於いては、日本は間違いなく主要なプレイヤーではなくなるであろう

RIPS' Eye No.143

執筆者略歴

みのはら・としひろ 1971年生まれ。神戸大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(政治学)。日本学術振興会特別研究員を経て、1999年4月より神戸大学法学部助教授、2007年4月から現職。安全保障研究奨学プログラム第14期生。主著に『ゼロ年代 日本の重大論点―外交・安全保障で読み解く』(編著)など。

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