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【2017年】

東アジアの安全に関する日米応の対話は重要-ベルリンの会合からの雑感

東アジアの安全に関する日米欧間の対話は重要―ベルリンの会合からの雑感

 3月初めにベルリンで弊研究所は、ドイツ国際安全保障研究所(SWP)との共催によるラウンドテーブルおよびコンラート・アデナウアー財団(KAS)との共催によるシンポジウムを実施した。英独仏伊と米国、日本からの有識者(シンクタンク研究員、大学教授など)の参加による会合で、前者は20名余の有識者による会合、後者は彼らに加えてドイツ外務省担当官の他80名余の参加者による会合となった。いずれもテーマは、ヨーロッパ、米国および日本が激変する東アジアの国家間緊張を考えて、国際関係の展開を論じるというものであった。
 会合では、トランプ米大統領の「米国第一主義」政策がこれまでの米国の政策と異質であること、そしてそれが今後どうなるか分からないという不確定要素が大きいことが議論になった。オバマ政権のリバランス戦略は継続されるのか、ISやロシアに関心をもつトランプ政権は防衛戦略の重心をヨーロッパや中東に再び移すのではないか、新政権は中国の軍事力拡張にどう対応するのか、などであった。
 やや懸念されたのは、ヨーロッパ側に、トランプ大統領の人権軽視(差別的移民政策など)に基づく対米不信感が私の想像以上に強かったこと、そして英国のEU離脱によって英米接近が進めば、EUの対米関係に悪影響を与えることを不安視していること、であった。 
ベルリンの会合の主目的は、東アジアの脅威に関して日米欧間で認識の共有化を目指すことであった。とくに対中認識に関するギャップは、欧州が中国の市場に関心を持ち、日米は中国の軍事力増強を懸念するという点であるとよく指摘されているが、こうしたギャップは我々の会合では懸念するほどではなかった。欧州の識者からも中国の南シナ海におけるハーグ裁定を無視した動きを批判し、西太平洋地域の勢力拡大に懸念を示す意見が聞かれた。ヨーロッパの対中認識が厳しくなってきたことを示すものであるように思われた。北朝鮮の核やミサイルがもたらす脅威、また金正男のクアラルンプールでの暗殺が示唆した北朝鮮の権力体制の歪みなどへの懸念も示されたが、この点では日米欧間にとくに差異はなかった。
 尖閣諸島をめぐる日中の対立は、日本および中国にとっては重要な問題であるが、この日米欧間の会合では関心を集めるテーマにはならなかった。この点は、会合以前から承知していたが、会合では米国側から、中国の海・空軍が太平洋に出るには尖閣諸島および南西諸島は極めて重要であるとの指摘があった。
 欧州側から、「南シナ海など、アジアの安全保障問題でヨーロッパにできることはない」という意見があったのには驚いた。私などは、「南シナ海を通るシーレーンは欧州とアジアとの貿易にとって重要であり、欧州はアジアの海上安全に関して発言すべきだ。欧州諸国の海軍がパトロールする必要はないとしても、ベトナムやフィリピンに巡視艇を提供するなどの関与は可能ではないか」との発言をしておいた。この意味で、日欧間、あるいは日米欧間でアジアの海の安全に関して対話が一層進むことが必要だと痛感した会合であった。

平和・安全保障研究所
理事長 西 原  正
(2017年3月13日)

年頭に当たって

年頭に当たって

新年明けましておめでとうございます。
 2017年にも多くの行事と活動を予定しております。毎月の「月例研究会」、ホームページでの小論評、春季と秋季に東京で開催する公開シンポジウム、秋の大阪での「関西安全保障セミナー」、7月に刊行予定の年報『アジアの安全保障』、9月の日韓戦略協力対話、そして人材育成行事としての「日米パートナーシップ・プログラム」第4期生ワシントン研修など忙しい年となりそうです。大きな希望と期待を込めて進めたいと思います。皆様方のご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します。

平和・安全保障研究所
理事長 西 原  正
(2017年1月1日)

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【2016年】

年頭に当たって

年頭に当たって

新年明けましておめでとうございます。
 昨年も国際政治は多くの国際緊張を生みました。ロシア、IS「イスラム国」、中国などによる、国際秩序を軍事力で変えようとする一連の出来事の中で、日本は集団的自衛権の制限的行使を認めた新たな安保法制を決定して日米同盟の強化に向かう動きを見せました。日本が東アジアの平和と安全により一層寄与できることを期待します。
 本年も研究所は、これらの情勢の的確な分析をしながら出版、講演会、研究会活動および若手研究者の育成などに努めたいと思います。皆様方のご指導ご鞭撻を賜りたくよろしくお願い致します。

平和・安全保障研究所
理事長 西 原  正
(2016年1月1日)

シンガポールの「地域展望フォーラム2016」に出席

シンガポールの「地域展望フォーラム2016」に出席

Regional Outlook Forum 2016a.png 去る1月12日に、シンガポールの東南アジア研究所(ISEAS)が主催した「地域展望フォーラム2016」(Regional Outlook Forum)にパネリストとして招かれて出席した。同フォーラムはアジア安全保障会議の開催場所として有名なシャングリラ・ホテルで行われたが、まず驚いたのはシンガポールのような小国(人口547万人)で行われたシンポジウムで約600人の参加者がいたことであった。東京で同様のテーマでシンポジウムが開催された場合、これだけの規模の参加者が集まるだろうか。

 このフォーラムは今年で第19回目になるとのことで名の通った行事であるとは言え、テーマへの関心の高さが示されていた。フォーラムは6つのセッション、①2016年の東南アジア全体の動向予測、②主要国の利害、③ASEAN経済共同体の展望、④東南アジアにおける「イスラム国」の動き、⑤インドネシア政治、⑥マレーシア政治を設け、それぞれのセッションに2名ないし3名のパネリストが司会者の質問に応えて討論をするという、テレビ討論形式のセッションが多かった。


相互非難が少なかった米中と厳しかった日本の対中批判

 私は第2セッションの「東南アジアにおける主要国の利害」というセッションにパネリストとして招かれた。米国のスーザン・シャーク・カリフォルニア大学サンディエゴ校教授(中国外交が専門で、クリントン政権第2期の東アジア・太平洋地域担当国務次官補代理)と賈慶國・北京大学国際関係学院々長(米中関係が専門)と私の3人がパネリストになり、最初に米国、日本、中国の順で各自10分余りの時間でそれぞれの国の立場を述べた。やや驚いたのは、シャーク教授も賈教授も南シナ海の問題では相互に厳しい非難をしなかったことであった。むしろ私が3人の中では最も厳しい批判を中国に向けていた。「法の支配にもとづく中国の外交が必要だ」と。私は、米中が強い相互非難を避けたのは、賈教授がかつてシャーク教授の所属するカリフォルニア大学サンディエゴ校で客員教授として招かれことがあり、親しい関係にあったため相互の批判はしにくかったのではないかと推測した。

 ただ司会者が南シナ海で軍事衝突が起きる可能性は強、中、弱のうちどのレベルと思うかという質問に対しては、日米中の3人とも「中」と答えた。

日本で聞けない東南アジアのIS情報など

 それぞれのセッションは、日本では聞けない専門家の議論を聞くことができた。とくにインドネシアのジョコモ大統領の未経験さやマレーシアのナジブ首相の内政問題の対応不手際などの詳細がそうであった。また東南アジア、とくにマレーシアやインドネシアにおける「イスラム国」への支持集団の規模は、私が思っていたより深刻であると思った。それと併せて、インドネシアの紛争分析研究所やマレーシアの国際イスラム教大学などが、相当に詳しい情報をもっていることも知った。例えば、インドネシアの「イスラム国」支持者約1000人の構成グループやネットワーク(親戚、学友、隣人、受刑者などから成っていること)やシリアに入ったインドネシア人指導者間の権力闘争、シリアのインドネシア人とインドネシア内のIS支持者とのつながりなどの分析の詳しさは素晴らしいと思った。

(2016年1月18日)

成功裏に終わったマニラ・シンポジウム

 去る2月26日に、平和・安全保障研究所はフィリピンのデラサール大学国際関係学部との共催で「東および南シナ海における海洋安全保障協力シンポジウム」を開催し、成功裏に終えることができた。昨年秋の初めに構想を練り始めて、シンポジウムの7カ国のパネリストたちに招待状を送ったのは11月末であった。当研究所スタッフの一人は12月上旬にマニラに行き、デラサール大学の関係者に会い、施設やレセプションの場所、ホテルの様子などの打ち合わせをしてきた。私も1月末に現地に行き、大学関係者に挨拶をし、下見をした。準備は大変であったが、デラサール大学はよく協力してくれ、意義深いものとなった。

 2月26日の会合は午前にはシンポジウムのパネリストだけによる非公開討議をし、午後には大きなホールで150人以上に参加者を前に公開討議を行った。午前中の討議の内容についてはその性格上ここでは述べることは控えたいが、率直な意見を聞くことができ大変有益であった。午後のシンポジウムではパネリストはやや発言を控えめにしていたが、参加者に対して現在東シナ海や南シナ海が直面している安全保障環境の動向を伝えることができた。

 このシンポジウムの主要な目的は、中国の海洋進出を抑制するために、とくに南シナ海の岩礁の人工島化や軍事化の動きを牽制するために、同じ考えを抱く関係国はどんな協力ができるだろうかということを話し合うことにあった。したがってシンポジウムには中国をパネリストに招くことは意図的にしなかった。

 協力を推進するための様々の意見が聞かれたが、中でも①中国が西太平洋でしていることをもっと公にさらすべきだ、②南シナ海での力の均衡を我々の方に有利に回復すべきだ、③協力のネットワークを推進するためには、米国の同盟関係、とくに日米同盟、日本とASEANとの関係強化、日米によるASEAN指示を強化すべきだ、④中国が法の支配に従わないのであれば、その代償が高くつくことを知らせるべきだ、⑤フィリピンの主張が国際仲裁裁判で支持されれば、これを中国に受け入れさせるような国際世論を作るべきだ、⑥中国によるサンゴ礁の広範囲の損傷など環境破壊にも注視すべきだ、などが顕著であった。もちろん⑦中国との対立の激化は避けるべきだ、⑧中国との経済協力は必要だ、などの意見も聞かれた。

 こうした討議の積み重ねが東シナ海や南シナ海の安定に中長期的に寄与することを期待したい。日本のシンクタンクが東南アジアで安全保障のテーマを討議する機会を持てたことは、日本の地域的役割を強化していく点で意義深いと思った。

(2016年3月8日)
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【2015年】

年頭に当たって

年頭に当たって

 新年あけましておめでとうございます。
 米露中日間の関係が緊張し、東アジアを始め、中東やアフリカでの領土や民族、宗教集団間の紛争が絶えない情勢を見ながら新年を迎えますが、平和・安全保障研究所は本年も新旧の外交・安全保障問題を分析し、展望していきたいと思います。7月の年報『アジアの安全保障』発刊、毎月の月例研究会、春と秋の講演会(東京)、冬の関西安全保障セミナー、若手研究者のための日米パートナーシップ・プログラム、日韓戦略協力対話などの年間事業を積極的に推進してまいります。本年も変わりないご支援、ご協力をいただきたく、よろしくお願い致します。

平和・安全保障研究所
理事長 西 原  正

(2015年1月1日)

「日米越3カ国協力会合」終了

「日米越3カ国協力会合」終了

 平和・安全保障研究所は2013(平成25)年度から3年計画で米国のシンクタンク主導による「日米越3カ国協力会合」プロジェクトに参加してきたが、このほど研究成果をワシントンD.C.で発表して終了した。
 このプロジェクトは米国のCenter for the National Interestが主導し、日本の当研究所とベトナムのDiplomatic Academy of Vietnam のInstitute for Foreign Policy and Strategic Studiesとの三機関によるもので、国際交流基金の日米センター(Center for Global Partnership)の財政的支援によるものであった。三国がどんな安全保障協力をしていくのが望ましいかというテーマを狭い意味での安全保障協力ではなく、貿易、投資、経済協力、エネルギー安全保障、災害支援など包括的な安全保障に関して議論を行った。
 会合は2013年7月15日ワシントンD.C.、同年11月18日ハノイ、2014年4月3日ワシントンD.C.、2014年7月8日東京、2014年11月18日ワシントンD.C.、2015年6月18日ワシントンD.C.と計6回の会合を行い、最後の第6回目の会合で、Tackling Asia’s Greatest Challenges; U.S.-Japan-Vietnam Trilateral Reportという報告書を出して終了した。
 この報告書は「三国間の経済協力の進展気運」、「東南アジアにおける海洋安全保障懸念の拡大と地域協力の一層の重要性」、「中国による東シナ海のADIZ設定と南シナ海の将来」、および「人道援助と災害救援による地域安定」、の4つの論文を掲載している。なお報告書は【http://www.cftni.org/】で見ることが出来る。
 この種の日米越3国による対話や共同研究はこれまでにほとんどない。その意味で大きな意義があると思う。会合を重ねるにつれて、3国の研究者の絆が強まったことも、重要な成果であった。

(2015年6月29日)

第7回 ハリファクス・フォーラムに参加して

第7回 ハリファックス・フォーラムに参加して

ハリファクス2015.pngフォーラム理事長ヴァン・プラッハと日本人参加者
 去る11月20日から22日にかけてカナダ最東部のハリファックス市で開催された第7回ハリファックス国際安全保障フォーラム(HISF)に参加してきた。このフォーラムは民間機関によって運営されているが、2009年の設立以来カナダ政府国防省の強い財政的支援の下に開かれている会議で今回が7回目に当たった。


討論会形式の充実した会合

 このフォーラムは、自由と民主主義を標榜する国々とこれから民主体制を要望する国の人たちの参加を原則としているので、中国、北朝鮮などは招待されていない。ロシアも招待国になっていないのは興味深い。今回は招待国60カ国、招待者300名と説明されていたが、主要民主主義国以外に中東、アフリカ、中南米諸国からの民主体制を支持する有識者が来ていた。主要国の国防大臣が参加するのをセールスポイントにしており、いつもは多くの国防大臣クラスが参加するのであるが、今回は恐らくパリのテロ惨事の対応で多忙なためか主要国の国防相は軒並み欠席であった。ただ発足したばかりのトゥルドー・カナダ新政権下のハルジット・サジャン国防相(インド系)は最初の2日間はずっと会合に出席していたのが印象的であった。
 またフォーラムは意見交換を重視し、いわゆるスピーチというのはきわめて少ない。大半はどの会合もテレビ討論式で数人が前に座り、パネル討論を始める。実際テレビ中継を行っていた。司会者がいきなりパネリストに質問を投げ、2,3分で意見を述べさせて議論を展開する。その間に会場にいる人とのやり取りもいれて生き生きとした討論に盛りたてる。退屈しないやり方である。

テーマの重点は大西洋地域から太平洋地域へ

 テーマは概して欧米偏向(大西洋問題)になりがちであるが、今回は直前に起きたパリのテロ事件のため、ヨーロッパの「イスラム国」過激派勢力への対応を軸に中東における過激派テロをめぐるテーマが当然関心を集めた。参加者の中には、シリアからの難民出身者、リビア出身の女性人権推進運動家、ヨルダンの銀行家など様々な国籍、職業的背景の人が来ていてテロリストの資金源、国際的人脈など、私には新鮮な話が多かった。またフォーラムの事務局の人脈の広さにも驚いた。
 フォーラムの会合は全体会合と小グループ会合からなり、全体会合はテレビで中継し、したがって討論内容はそのまま放映されるため、内容は公開である。こうした会合は8つあった。これに対して非公開の小グループ討論は、夕食を挟んで開いたり、夜分遅くに(午後9時半開始)開いたりしていた。小グループは10人ぐらいずつで構成され、国防問題から女性推進問題、民主化問題まで全体で19グループあり、ここでも討論中心の会合となった。
 フォーラムはアジア太平洋地域の諸問題(とくに中国、インド、日本、韓国など)にもテーマを広げてアジア人の参加を増やす努力もしている。今回は米太平洋軍司令官のハリス海軍大将という大物を招いたが、これによってもフォーラムの将来の方向が示唆されていた。
 彼のスピーチの後、「壊れた中国Broken China」と題するテーマのパネル討論があり、私はパネリストとして招かれた。他にフィリピンのカルピオ最高裁判事、オーストラリアのトゥルッド・グリフィス大教授、ロジャーズ海将・米サイバー司令官が加わった。司会者はBBC国際特派員主幹のリース・ドゥセであった。フィリピンのカルピオ判事は南シナ海の一部の島は自国に領有権があり、国際仲裁裁判で勝訴する自信があると述べた。私は「中国は壊れているとは言えないが、多くの国内問題を抱えており経済成長など政府が公表する来年目標の6.7%より低くなると思う。2020年に米国に追いつくことは考えられない」などの発言をした。

日本からの参加者に当研究所の奨学プログラム修了生2名参加

 今回のフォーラムに当研究所の奨学プログラム修了生2名、神谷万丈防大教授と岩間陽子政策研究大学院大学教授が招かれ参加した。ともに奨学プログラム6期生であり、修了生の活躍に注目した。

フォーラムの将来は未確定

 もっともフォーラムの将来に関しては、サージャン新国防相はフォーラムへの支持を確約したが、先行きを懐疑的に見る人もいる。トゥルドー自由党政権は、前任の保守党政権が行った施策を見直すなかで、当フォーラムを改変するかあるいは解消するかもしれないと見る有力な見解がある。フォーラムは前政権のピーター・マッケイ国防相が始めたプロジェクトで、かれがハリファックス出身であるためフォーラムを同地で始めることになった。しかし新政権がアジア重視を打ち出しそうであるため、フォーラムの開催場所を西のバンクーバーに移すかもしれないとのささやきも聞かれた。

(2015年12月14日)

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【2014年】

第3回 日米越協力会議が開催される

第3回 日米越協力会議が開催される

 第3回日米越協力会議が去る2014年4月3日にワシントンで開催された。これはCenter for the National Interest(米国)、 Institute for Foreign Policy and Strategic Studies(ベトナム外務省傘下)、 平和・安全保障研究所(日本)によって実施されているもので、今回は、中国の防空識別圏(AIDZ)に関する評価、将来の展開予測などを中心に議論が行われた。平和・安全保障研究所からは西原正理事長および永岩俊道氏(元航空自衛隊空将)が参加した。ワシントンのシンクタンクの研究者や大使館関係者も参加し、総勢約40人の会合となった。

 中国が2013年11月23日に発表した防空識別圏に対しては、参加者は中国が識別圏をあたかも領空のように扱っていて間違っているとの認識で一致したが、それを中国の識別圏に対する認識不足によるとする見解と、識別圏は中国の接近阻止、領域拒否戦略の一環だとする見解に分かれた。また習近平国家主席が、海軍ばかりでなく空軍にも国家防衛の役割を与える必要があったとする説も紹介された。

 また中国空軍は防空識別圏に侵入する不明機に対処する緊急発進能力(スクランブル)はないだろうという見解も出された。防空識別圏設定のあと、中国側が、米国がB-52爆撃機を飛行させたことや侵入した空自戦闘機に対して中国機がスクランブルをかけたことを発表したが、いずれも国内向けのもので、実際には行われなかったことも紹介された。

 中国の防空識別圏に対する関係国の反応に関しては、日本、米国、オーストラリア、ベトナム、フィリピンは一様に厳しい反応を示した。しかし韓国は中国と領有権をめぐって係争中の離於島が中国の防空識別圏下に入ったことには強い不満を表明したものの、全体としては比較的緩やかな反応であったことが指摘された。ベトナムやフィリピンは、中国が南シナ海にも防空識別圏を設定することを警戒しはじめた。

 識別圏の今後の展開に関しては、中国はこの識別圏を発表したことで国際的批判を受け、外交的に孤立したので、今後は慎重に進めるであろうとする見解と、今後は南シナ海に同様の防空識別圏を設定するであろうとする見解が議論された。

(2014年4月14日)

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日本外交の株は上がった
-シャングリラ・ダイアログに出席して-

日本外交の株は上がった-シャングリラ・ダイアログに出席して-

 去る5月30日から6月1日までシンガポールで開催された「シャングリラ・ダイアログ(シャングリラ対話)」に出席した。この会合は今回第13回目の会議になった。シンガポールのシャングリラ・ホテルで開催されるため、こう呼ばれるが、日本では「アジア安全保障会議」として知られる。この会議はロンドンに本部をもつ国際戦略研究所(IISS)の主催によるもので、毎回会議は第1日目の夕食会で始まり、ここで首相級の人が基調講演を行う。次いで2日目からは参加国の国防大臣級の講演があり、それに基づいて会場との質疑応答が行われる。本年は安倍首相が基調講演を行い、小野寺防衛大臣が翌日講演を行った。正式の参加者は400名余とのことで、「過去最大の会議になった」と、ジョン・チップマンIISS所長は述べていたが、実際にはマスコミや大臣の随行員も多数出席しており、500名を超えていたと思う。

 安倍首相の講演は “Peace and Prosperity in Asia, Forevermore: Japan for the Rule of Law, Asia for the Rule of Law, and the Rule of Law for All of Us” という長いタイトルのものであったが、「アジアの紛争の解決は法に則って処理されるべきであり、力による現状変更は認められない」という主張で、大変好評であった。首相は日本語で講演したが、素晴らしい同時通訳が付いた。抑揚のきいた、低めの声による通訳はこうした場合、実に効果的であることを証明してくれた。もちろん、講演は中国を念頭においたもので、好評度は参加者の拍手の大きさや、翌日の何人かの国防大臣の講演でも「昨晩の安倍首相の素晴らしい講演で言及があった如く、紛争は国際法に基づいて解決されるべきだ」との発言に表れていた。

 中国は人民解放軍副総参謀長の王冠中・陸中将が講演をした。もし中国が国防相を出していたのならば、中国代表の講演の順番は米国(ヘーゲル国防長官)の次ぐらいになるのであるが、中国は常万全国防相が欠席したため、王冠中氏は最後の日のセッションに回されてしまった。同中将の講演は、”Foster an Asian Security Concept and Joint Work for a Bright Future of Asia-Pacific” と題するもので、「中国はアジアの平和と安全保障にとっての、建設的で前向き、かつ積極的勢力である」、「中国は永続する平和と共通の繁栄を目指す友好的世界ばかりでなく、調和のとれたアジアの構築にコミットしている」、「中国は武力を行使して脅かしたり、挑発的な行動をとったりしたことは決してない」など、バカらしくて聞くに堪えないプロパガンダであった。

 しかし興味深かったのは、講演の途中、「ここで講演のテキストから離れてこれまでの安倍首相、ヘーゲル米国防長官の講演に関して個人的見解を述べたい」といって、「日本と米国は裏で打ち合わせて中国への強い非難をした。ヘーゲル国防長官はより直接的に中国の国名をだして非難した。それに対して安倍首相は国名を出さなかったが明らかに中国を指して非難した。これは失礼なやり方であった」と述べた。中国の要人がそんな場所で「個人的見解」を述べることは考えられない。私の周辺の参加者の間では、「あそこの発言は本国と協議してのことで、公式発言だよ」ということになった。私は「先般、習近平主席が上海で“アジアの安全保障はアジア人で話しあうべきだ”と言われて米国を除外する演説をしたが、中将の今日の講演はそうなっていないが、そのギャップはどう説明するのか」という質問をした。もちろんそれに対する応答はなかった。

 過去13回のシャングリラ・ダイアログで、中国の国防相が出席したのは1回だけである。2011年5月の第10回会議に梁光烈国務委員兼国防相が出席した。同国防相の講演の後の質疑応答で、ちょうど南シナ海で中越,中比の対立が進行中であったため厳しい質問を受けた。私なども、「梁国防相の講演で紛争の平和的解決を唱えられたが、実情との相当な乖離をどう説明するのか」という質問をしたのを覚えている。それ以来、中国は国防相クラスの参加は不利と読んだようだ。

 アジアの安全保障の会議では日本株は上がっている。中国はアジアで孤立している。来年の会議で中国はどんな姿勢で臨むだろうか。

(2014年6月23日)

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第8回 日韓戦略対話、9月17日開催、深まった議論

第8回 日韓戦略対話、9月17日開催、深まった議論

 9月17日、ソウルで第8回日韓戦略協力対話が行われました。これは、当研究所と韓国外務省国立外交院外交安保研究所(IFANS)との共催で、2007年から毎年、開催地を替えて実施しているものです。今年は、①「北東アジアの安全保障環境における米中要因」、②「北朝鮮の状況と半島統一の展望」、③「韓国と日本:二国間および多国間関係において」、という3つの議題を中心に熱心な議論を展開しました。とくに日韓関係を悪化させている諸案件に関しての議論が活発に行われました。

 日韓関係が悪化している環境下での会合ではありましたが、相互に感情的な発言はほとんどなく、冷静に議論が行われました。議論の内容は公表しないことになっていますが、会合は米国の役割、中国の対外行動、日韓間の諸問題など双方の見解の相違を狭めるのにきわめて有益でした。双方が率直に意見を交換できる雰囲気があり、有意義な会合になりました。

 なお日本側からは、西原正(平和・安全保障研究所理事長)のほか、伊豆見元氏(静岡県立大学教授)、山岡邦彦氏(北海道教育大学教授)、加藤洋一氏(朝日新聞社編集委員)の4名、韓国側からは申鳳吉氏(外交安保研究所所長・大使)以下13名が参加しました。

(2014年9月24日)

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ハリファックスの国際安全保障討論に参加して

ハリファックスの国際安全保障討論に参加して

 去る11月21~23日にカナダ・ハリファックスで開催された「ハリファックス国際安全保障フォーラム」に参加してきた。私はこれで2度目の参加になったが、シンガポールで毎年6月初めに開かれるシャングリラ・ダイアログ(アジア安全保障会議)やドイツで2月に開かれるミュンヘン安全保障会議などと比べて国際的認知度はまだ低いが、質の高い議論の会合だとの評価を得つつあるという感じを持った。

 他の会合とは違って、会議形式ではなくテレビ中継をする公開討論会とテレビ中継をしないオフレコの会合とから成り、独特のスタイルで行っていた。会議の組織運営は民間人であるが、カナダの国防省の肝いりで開催されており、ロバート・ニコルソン国防相はホストとして会合の大半に顔を出していた。

 またフォーラムは現職の外相、国防相、軍参謀長らとともに外務、防衛省役人、学者、将校、ジャーナリスト、NGO関係者らが参加し、全部で300人位が参加していた。ジョン・マケイン米上院議員(共和党)は常連の有力参加者である。昨年参加したヘーゲル米国防長官は今年も参加の予定であったが説明もなく会合に現れなかったので不審に思っていたが、会合後の翌日ヘーゲルの長官辞任のニュースが流れ、納得した次第であった。

 最後の日、23日(日)の朝は5キロマラソンも行事として組まれ、気温0度に近いところにも拘わらず多くの参加者がいたとのことであった。

 去る10月にカナダ人でイスラム国へのシンパが首都オタワの戦没者慰霊碑を警護していた兵士を射殺し、その後連邦議会議事堂に侵入し、警察との銃撃戦の末射殺されるという事件が起きたため、ホテルの警備は昨年よりも厳しく驚いた。

 このフォーラムでもう1つ興味深いのは、共産国とくに中国人の参加は忌避されていたことである。中国人が出席していると、中国への率直な批判がし難い点を考慮しているようだ。自由主義国の参加者が過半数であったが、中東、アフリカなど開発途上国の人たちが多く参加していた。

 討論のテーマは公開、非公開を併せて36項目あり、概して北米とヨーロッパに関心に合うテーマが多い。今年は中東の「イスラム国」問題の議論がいくつかのセッションで行われた。アジアのセッションは、中国の軍事力拡張、インドのモディ政権、香港の学生デモ、日韓関係の4つであった。私は香港のセッションでパネリストになるよう依頼された。パネリストは3人で、私以外には英国の情報関係にいたポーリーン・ネビル・ジョーンズ元首相特別代表と亡命チベット政府首相のロブサン・サンゲイ法学博士(ハーバード大学)であった。

(2014年12月2日)

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【2013年】

ハリファックスの国際安全保障討論に参加して

ハリファックスの国際安全保障討論に参加して

カナダが生んだテレビ討論形式の会議

 去る11月22-24日にカナダのハリファックスで行われた第5回国際安全保障フォーラム(Halifax International Security Forum, HISF)に参加する機会を得た。このフォーラムは2009年にハリファックス出身の当時の防衛大臣(現法務大臣)Peter MacKayのイニシアティブで始まったもので、現役大臣や有力議員、現役および退役軍人、民間シンクタンク、NGOなど、さまざまな資格で参加する人たちが招かれた討論の場であった。今回約300人の参加者があり、公開セッションでは、4~5人の討論者と司会者が中央に位置し、それを囲むように観覧席があり、そこに参加者が座るという形式であった。長々としたスピーチはなく、いきなり司会者の直截な質問が討論者に投げかけられ、短く応えながら討論を進めていた。ちょうどテレビ討論のようであった。実際生中継で放映され、かつYouTubeにも載せていた。

有力指導者の参加

 参加者の中には、Chuck Hagel米国防長官、John MacCain 米上院議員、Moshe Yaalon イスラエル国防相やGeneral John Allen 元駐アフガニスタン米軍最高司令官兼NATO軍司令官(ISAF)、Kevin Rud 元オーストラリア首相など、そうそうたる指導者が来ていた。またイラン、アフガン、テロなどのセッションの討論の充実を図るためだと推察したが、アフリカ、中東(アフガニスタンを含む)、南米からも有力者が招かれていた。もう一つの特徴は、民主主義国の人たちの会合となっており、中国は招かれていなかったことであった。したがって民主主義国というには疑問のあるロシアも来ていなかった。

北大西洋諸国中心だが、中国への関心は高い

 しかし東アジアからは、日本以外に、韓国、フィリピン、インドネシアぐらいしか来ておらず、北大西洋地域中心の参加者による会合であった。したがって扱われた12の公開討論のテーマも北大西洋諸国の関心事になっていた。しかし中国の存在は大きく、私が公開討論に出た「From India to the Americas」を含め、他のテーマのセッションでも、やはり中国がしばしば話題になった。会合が始まったところで、中国の東アジアにおける防空識別圏設置発表と重なったことも大きかった。

アジアのイニシアティブによる会合も重要

 このハリファックスの会合にはもっとアジアからの参加があることが重要である。ハリファックスと並んで、安全保障関連の国際会議やフォーラムはいくつかある。シンガポールのシャングリラ会議、スイスのグローバル・レビュー会議(いずれもロンドンの国際戦略研究所IISS主催)、ミュンヘンのミュンヘン安全保障会議などである。アジアの国が主催するのはクアラルンプールのアジア太平洋安全保障会議ぐらいである。しかし国際政治の重心がアジア太平洋地域に移り始めていることを考慮すれば、アジアのイニシアティブによる国際的会合がもっとあってよいと痛感した。

(2013年12月4日)

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実り多かったハノイの日米越協力ワークショップ

実り多かったハノイの日米越協力ワークショップ

 去る11月19日、日米越間のパートナーシップを促進することを話し合うワークショップがハノイで行われた。日本は当研究所、米国はワシントンのCenter for the National Interest が参加しており、民間のイニシアティブで実施している。とはいえ、ベトナムは外務省のDiplomatic Academy of Vietnamの中のシンクタンク、Institute for Foreign Policy and Strategic Studiesで政府系であった。

 同じ3者によるワークショップで、去る7月にワシントンで地域安全保障環境の変化や3国間の経済協力などに関して話し合ったのであるが、今回はハノイに来て「東アジアの安全保障環境の変化」、「地域安全保障におけるASEANの役割」、「東アジアにおける領土問題」、および「シーレーンの安全と3国間の協力」というテーマで話し合った。内容の充実した会合になった。議論の内容は外部に出さないことになっているので、ここでは紹介できないが、気のついたことを3点記したい。

 第1に、上記のテーマはそれぞれ活発な議論を起こしたのであるが、ベトナム側は一切ペーパーを出さなかった。前回のワシントンの会合でも、ベトナム側は経済協力のセッションにはペーパーを出したが、政治、安全保障関連のセッションではペーパーを出さなかった。これはベトナムが政治、安全保障分野での見解が記録に残ることを警戒していることを示していた。前回でもそうであったが、ベトナムは中国に関してはとくに抑制を利かした発言をしていた。ベトナムの対中関係の難しさが反映されていた。

 第2に、ベトナム側の正式代表ではない参加者から、「安倍内閣は憲法改正を進めようとしているが、日本が今後安全保障面でどういう役割を果たそうとしているのか、政策にもっと透明性が必要だと思う」という意見が出た。ベトナム人の研究者が日本の安全保障政策に関心をもち、安倍政権を観察していることを知って、むしろ嬉しかった。

 第3に、ベトナムは南シナ海を公式には「東海(East Sea)」と呼んでいて、外務省のDiplomatic Academy of Vietnamの中にCentre for East Sea Studiesというのがある。しかし我々との討論ではSouth China Seaを用いることには躊躇していなかった。これは興味ある状況だと思った。ついでながら、フィリピンは南シナ海を公式には「西フィリピン海 (West Philippine Sea)」と呼んでいて、外務省の中にWest Philippine Sea Center というのがある。

(2013年12月3日)

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領土懇の報告書提出を終えて

領土懇の報告書提出を終えて

 去る7月2日に山本一太領土問題担当相に対して、「領土・主権をめぐる内外発信に関する有識者懇談会」報告書が提出された。この報告書は、4月23日に官邸で総理の出席を得て第1回会合を開いてから6月25日までに計5回の会合でなされた、10人の有識者の自由闊達な議論を踏まえて作成されたものである。たまたま私が座長を仰せつかったので、私が懇談会を代表して大臣に提出した次第である。報告書はその日に山本大臣が安倍総理および菅官房長官にも報告された。

 この『戦略的発信の強化に向けて』と題する報告書では、日本は竹島、尖閣諸島の領土・主権に関する日本の立場を広報するに当たって、韓国や中国に後れを取っているという危機意識から、より効果的な発信をするには何をすればよいかという課題に応えたものである。

 そこでは、国際社会での理解を得ようとするならば英語による発信を強化すべきこと、短くわかりやすい説明が必要であること、写真や映像を活用することが重要であること、国内啓発も必要であること、などの提言がなされた。

 そして尖閣諸島に関しては中国が物理的な力の行使による現状変更を企図していること、そして中国は1971年になって初めて領有権を主張してきたことを対外的にアピールすることが有効であるとした。また竹島に関しては、韓国が1952年に突然「李承晩ライン」を引いて竹島を内側に入れたこと、そして1954年には沿岸警備隊を派遣して竹島を力によって奪取したこと、またその過程で日本漁船の拿捕、大量の日本漁民の拘束、日本船舶への銃撃など、力の行使が行われたことなどを、日本側が国際法による解決を追求してきた点を対比的に発信すべきであると提言した。

 報告書は和英両語で作成された。今後の日本政府の努力が期待される。

(2013年7月12日)

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久しぶりのモスクワ訪問から

久しぶりのモスクワ訪問から

 3月中旬に、久しぶりにモスクワを訪問した。5日間の短い滞在であったが、収穫は予想以上に大きかった。ユーラシア21研究所と安全保障問題研究会による恒例の行事で、主目的は「日露専門家会議」に参加することであった。しかしこの議論の内容は公表しないことになっているので、ここでは控えたい。会議後、議会、外務省、大学教授、シンクタンクのなどの関係者と意見を交わす機会があった。会合を通して得た安全保障関連の事項で、いくつかの興味深い点を挙げてみたい。

北方領土問題には飽きている

 北方領土問題に関するロシア人の多くは、日本の要求に応じた解決策(4島返還)など考えられないと言い、安倍首相の4月訪ロでの進展は期待できないとしていた。しかし我々が話した一ロシア人学者が、「2島(歯舞、色丹島)即時返還、残り2島50年後の日本への移管」方式を提案しているのは興味深かった。柔道好きのプーチン大統領が両国の交渉に対して「引き分け」を示唆したことで問題進展への期待感が日本側にあるが、私には安倍総理が4月末に計画している訪ロで、領土問題の進展は望めないように思える。

中国への警戒感は強い

 ロシア人の対中観は複雑である。一方で、米国の「覇権」を牽制する上では、中国はロシアの戦略的パートナーである。また中国はロシアの兵器のお得意先でもある。しかしその反面、中国がロシアの兵器を模倣し、安価でアフリカなどに売っていることにロシア側は不満をもっている。「中国のステルス戦闘機J-31はロシアの摸倣だ」と確認してくれた。一ロシア人専門家は、「新聞には出ていないが、ロシアの兵器の機密を探って逮捕されている中国人がいる」と明かした。また中国は空母「遼寧」(旧名ワリヤーグ)甲板の戦闘機発進発着装置をロシアから購入しようとしたが、ロシアが拒否したとのことであった。
 さらにロシアは共同兵器生産でインドとパートナーを組んでおり、これも対中牽制の一つであるとのことであった。またベトナムに対しては、ミサイル生産工場の建設を援助していると言っていた。

ロシア極東への中国人大量流入はない

 一般に日本では、ロシア極東地区における中国人が急増しているとの印象を持っているが、一専門家の話では、中国人の大量流入はないと明言した。建設現場に来る中国人は契約後帰国しており、農業労働者は季節性のものであるという。小売マーケットに進出する中国人は店を所有し、ロシア人を売り子として雇用している。これらの中国人にはロシアに残り、ロシア人と結婚する例があるが、全体としてはきわめて少ないとのことであった。

北朝鮮の核能力は未熟

 北朝鮮が実験して成功させたという長距離ミサイルおよび核の小型化に関しても、日本や米国でされている議論を否定する見解にも接した。国防問題の一専門家は、「北朝鮮が長距離ミサイルの打ち上げに1回成功したからと言って、配備できる段階にあるとは言えない。ミサイルの打ち上げは何回も行って練度を上げなければ信頼できる武器にはならない。核の小型化は成功したかどうかは疑わしい」と述べていた。

(2013年3月30日)

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【2012年】

ぎくしゃくする日韓関係日米韓会議に出席して

ぎくしゃくする日韓関係-日米韓会議に出席して

 去る5月21,22日にニューヨークで日米韓会議があり、私も招かれて参加した。ニューヨークのNational Committee on American Foreign Policy が主催したもので、これまでもソウルなどで行ってきた。約30名の参加者のうち、政府関係者は日本の外務省、ニューヨーク総領事館、米国務省、韓国外交・安保研究院、国防分析研究所、ニューヨーク総領事館などからの参加者約10名で、残りは学者、元外交官、ジャーナリストなどで、いわゆるトラック1.5であった。

 会議は誰がどんな発言をしたかは外部に出さない方針(いわゆるチャタムハウス・ルール)で行われたので、ここでもそれを尊重したい。全体としては、北朝鮮の核や体制の安定、中国の外交政策、軍事力増強、内政不安定、日米同盟、米韓同盟などの諸問題が議論された。中国国内の不安定要因が増大していること、北朝鮮の体制が崩壊することはないが、制裁の効果があり内部不満が増大していること、韓国の李明博大統領あとの政権がふたたび北に融和政策をとるかもしれないこと、そして4月末の野田首相の訪米が成功したことで、鳩山、菅政権下で弱化した日米同盟が回復したこと、などの評価があった。

 懸念されたのは、日米韓の安全保障関係を推進する利点はそれぞれの国が認めるにもかかわらず、日韓関係がぎくしゃくし、それが大きな阻害要因になっていることである。5月半ばに韓国の国防相が慰安婦問題を理由に訪日をキャンセルしたことが、当然議論になった。日韓の首脳レベルの会合で、物品役務相互融通協定(ACSA)や軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を進めることが合意されたにもかかわらず、防衛相の訪日中止で協定の署名が遅れるという状況になっている。日韓には他にも歴史問題があり、今後これらが二国間、あるいは三国間の安全保障関係に悪影響を与えないように、日韓は知恵を絞っていくべきだと痛感した。

(2012年5月26日)

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